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 ドロプウォートの参戦と善戦により勝利へ近づくエルブ軍――

 血と汗と泥が入り混じり、ぬかるむ足下を気にする余裕もなく剣を振るう総師団長アスパー。
 人狼にトドメの一撃を刺し加え、剣を引き抜き、

「あと一押しだぁーーー! ここが踏ん張り所ぞぉおぉーーーーーーーーーッ!」
「「「「「「「「「「おぉーーーーーーーーー!」」」」」」」」」」

 兵たちが鬨の声で返した次の瞬間、砲弾でも飛んで来たかのような激しく尾を引く風きり音がし、
「「「「「「「「「「?」」」」」」」」」」

 ズドォドォドォーーーーッ!!!

 戦場のど真ん中、着弾でもしたかのような大爆発が。

「「「「「「「「「「うわぁーーーーーーーーー!」」」」」」」」」」

 数十名の騎士、兵士が巻き込まれて吹き飛ばされ、アスパーを含む、被害を免れた兵たちは、もぅもぅと立ち込める砂煙に、

『何事かァ!』

 爆心地に目を凝らすと、

『おやぁおやぁ気合が入り過ぎてぇ~総大将とも、小娘の位置とも、少々ズレてしまいましたようですよねぇ~いやぁ失敗、失敗ですわよねぇ~』

 頭からローブをすっぽり被ったままの、地世の導師パトリニアが口元に不敵な笑みを浮かべて姿を現した。
(なっ、何のだコイツは……)
 得も言われぬ怪しい気配に、息を呑む総師団長アスパー。

 地世信奉者たちと変わらぬ見た目ではあったが、他とは明らかに違う「何か」を敏感に感じ取り、様子を窺っていた。
 しかし、

『変化してない地世信奉者など恐るるに足りず!』

 血気盛んな一部の騎士たちが雄叫びを上げ、剣を構えて「我先に」と斬り掛かり、
「いっ、イカァンのであるゥ!」
 焦りの声を上げるアスパー。
 櫓のラミウムも、

「ソイツから離れるさぁねぇーーーーーーー!」

 血相を変えたが、
「もう遅いですよねぇ~」
 パトリニアの口元が不敵に歪み、

≪出でませ出でませ我らが地世王のチカラ! 主を違えし愚民どもを灰燼に帰せぇ!≫

 漆黒の業炎が彼を中心に全方位へ爆発するかのように一瞬にして広がり、
「「「「「「「「「「うわぁーーーーーーーーー!」」」」」」」」」」
 半径数十メートルの範囲に居た、騎士、兵士たちはおろか、サイクロプスや人狼たちをも巻き込み黒炎に焼かれ、一瞬のうちに灰と化した。

((((((((((敵味方関係なしだぁとぉ!))))))))))

 狂気の沙汰を目の当たりに、後退る騎士、兵士たち。
 咄嗟の判断で被害を免れた総師団長アスパーも焦りを露わ、
(我々がアレほど手を焼いた化け物どもを瞬殺だとぉ!?)
 更なる強者の出現に、苛立つ奥歯を噛み締め、

『隣国からの増援はまだぁ来ぬのかァーーーッ!』

 怒りの咆哮を上げていた頃、エルブ国と国境を接する各隣国は、遅れ馳せながらの出陣準備を着々と整えつつあった。


 北東の隣国フルール――

 女帝制を取るこの国は、女性が上位。
 四人掛けの豪奢なソファーを思わせる玉座の傍らに、華奢で物静かな見た目の中にも凛然たる「知性と品性」を漂わせる黒髪ロングヘアの女性を側近として立たせる、素肌が透けて見えそうな羽衣を羽織った、年齢不詳の美しき女王フルール。
 妖艶な笑みを浮かべて横長玉座に横たえ、自身のボリューム感のある黒髪を一撫で、眼前に跪く、素人目にも屈強そうな「黒髪女騎士」軍団を前に、
「皆の者ぉ、此度も妾の為に働いてたもれよぉ。故国の更なる繁栄は、そなたらの働き次第じゃ」
 気怠そうな物言いにかかわらず、

「「「「「「「「「「は!」」」」」」」」」」

 一糸乱れず頭を下げる様子から、彼女の圧倒的カリスマ性が窺える。


 北方の隣国アルブル―――

 国王と王妃が立て続けに亡くなり、十歳と言う幼さで王位に就いた現アルブル国王。
 しかしその実権は、宰相アルブリソが握っていた。
 無表情の幼王アルブルが鎮座する玉座の傍ら、司教の様でありながら「過剰に豪奢なローブ」を羽織った、細身で神経質そうな顔立ちのアルブリソは、跪く騎士たちを前に鼻息荒く、

『アルブルの騎士たちよ! 他国に後れを取るでないぞ!』
「「「「「「「「「「ははぁ!」」」」」」」」」」

 一斉に頭を下げる騎士たち。
 しかし、隠した表情には明らかな反発心が滲んでいた。


 北西の隣国カルニヴァ―――

 病床の父に代わり、王位に就いたばかりの若き国王カルニヴァは血気盛ん。
 筋骨隆々膨れ上がった大胸筋を見せつける様に、玉座の前で力強く右手を振りかざし、跪く上位騎士団団長たちに、

「クルシュ! ルサンデュ! トムフォル! ヴェズィクローザ! 準備は出来ておろうなァ!」
「「「「は!」」」」
「良いかオマエ等ァ! よそに出し抜かれるんじゃねぇぞ!」
「「「「ハハァ!」」」」

 団長たちは従順に頭を下げたが、若き国王の傍ら、場違いな燕尾服を羽織って控える「老年の男性」は呆れ顔して首を振り、
「殿下ぁ、国王となられたのですから、もう少し立ち振る舞いと物言いを、」

『カァーカッカッ!』

 苦言を豪胆に笑い飛ばし、
「何言ってんだ「じぃや」! 戦は一にも二にも気合だ気合ぃ! こじゃれた物言いなんて俺様ぁらしくもねぇだろぉがぁ!」
 どこ吹く風で、少年の様な屈託ない笑顔で笑って見せた。
 ヤレヤレ笑いで首を振る「じぃや」と呼ばれた男性。
 出兵準備を着々と進める、

 アルブル国
 フルール国
 カルニヴァ国 

 隣国三国国王の思惑はただ一つ。

『『『エルブ国国王の首ィ!』』』

 勇者召喚の地であり、天世降臨の聖地でもあるエルブ国は、今、まさに存亡の機に瀕していた。

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