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 椅子車の話をしていた筈が、

(何で、こんな話(胸の話)になっちゃたのぉ~)

 嘆きのラディッシュは「女同士の意地を賭けた諍い」に、触らぬ神に祟りなし、首を突っ込むのは「無謀」と知りつつ、どこまでも際限なく逸れて行く話に、そろそろ事態の収拾を図ろうと、
「あ、あのぉ~」
 恐る恐る、窺う様に声を掛けた途端、

『『ラデッ!』』
「はっ、ハヒッ! 何でしょうぅ!」

 殺気立つ、二人の気迫に押されてピンと背筋を伸ばすと、
「「男(ラディッシュ)の意見として、どっち(大・小)がイイ(でぇすの・さぁね)!」」
 脅す様に答えを強いる、小山と大山に、

「え、えぇ~とぉ~~」

 答えを躊躇う、ラディッシュ。
 当然である。
 どちらの答えを選んでも、彼を待ち受けているのは「生き地獄」なのだから。

 否モテ男子とは言え、そんな分かり切った「あの世への片道切符」を選べる筈も無く、
「そっ、そのぉ~~~」
 言い淀んでいると、

「さぁ!」
「さぁ!」

「「さぁさぁさぁさぁあァ!!!」」

 サイズ違いの二つの膨らみは、更に答えを迫り、
(ひぃ~! どぅしたら良いんだよぉおぉぉぉおぉおぉ~~~!)
 心の中で泣きながら、嘆きの絶叫を上げていると、

『『グゥ~~~ゥ!』』

 前触れなく二つの快音が同時に鳴り響き、小山と大山は顔を赤らめ、急に押し黙った。
「「…………」」
 お腹を押さえ、羞恥にうつむく女子二人。
「…………」
 卒倒寸前の窮地にまで追い込まれ、逃げ出そうかとさえ思っていたラディッシュは、答えを迫る二人を鬼のように思い見ていた自身を小さく笑い、些細に思える事を恥じらう二人を「可愛い」と思い直し、

「二人とも、お腹が空いてるからイライラするんだよぉ。ドロプさんの分もスグに用意するから座って待っててぇ。あっ、モチロン、パストさんの分もね♪」

 キッチンスペースに移動すると、赤面顔の女子二人は「これ以上は何を言っても恥の上塗り」とばかり静かに、
「「…………」」
 今し方までの諍いがウソの様に、ドロプウォートもテーブル席に着席した。
 すると、

「!」

 自分の為に用意された料理に向けられる「熱視線」に気付くラミウム。
 それは物欲しそうに見つめる「パストリスの視線」であり、すかさず、

『こ、コレはアタシの飯さぁね!』

 並べられた料理を両腕で隠す様に守り、
「例えパストにでも、やらないよぉ!」
 そのあまりに子供じみた言動に、呆れ顔するドロプウォート。

「天世様ともあろう御方がぁ、何とも浅ましいモノですわぁ……」
「う、うるさいねぇ! アタシぁ今までずっと我慢して来たのさぁね! あんな美味そうなニオイを、毎度毎度ソバで嗅がされてたコッチの身にもなってご覧なぁ!」

 噛みつきそうな勢いの憤慨に、ヤレヤレ笑いで以て、
「誰も、貴方(天世)用に調理された食事を取ったりはしませんですわぁ、ねぇパスト」

「え?!」

 一瞬の、驚き顔を見せるパストリス。
「あ、うっ、うん! もっ、モチロンでぇすぅ!」
 不自然な笑顔を返し、

((取る気で(いましたの・いたのさぇ)ね……))

 困惑笑いを浮かべるドロプウォートとラミウムであった。
 他愛ない談笑で、落ち着きを取り戻したドロプウォート。やおら、ラミウムの両足に視線を落とし、
「ラミィ……椅子車が必要と言う事は、もしか貴方の両足は……」
 自己犠牲の代償に顔を曇らせたが、ラミウムは陰りなく「フッ」と小さく笑い、

「暗い顔をスンじゃないよ、らしくないさぁねぇ。体は動くようになった。ならぁ足も、じきに動くようになるモンさぁね!」

 鼻先で笑い飛ばすと、パストリスが向ける無垢な視線に気付き、
「ん?」
 見つめるその眼は濁りが無く、純粋であり、穢れも無く、大人の穢れまみれのラミウムは、全てを見通す様な清廉な瞳に、

「なっ、何だいパストぉおぉ?」

 思わず気圧されると、パストリスが不思議そうにポツリと、
「どうして、そんなに椅子車を嫌がるの?」
「へ?」
「言われてみれば、そうですわねぇ?」
 改めて問われる、もっともな疑問。
 しかし、問われたラミウム自身も、

「それは……」
(そもそもアタシはぁ……どぅしてそこまで椅子車を拒んでんだぁい?)

 明確な答えを出せずにいた。
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