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 同時刻――
 
 ベッドに横たわったまま療養中のラミウムと、介抱するラディッシュ。
 そんな二人の下へ、事前予約の無い訪問客があった。

 コンコンコンコン!

 不意に扉がノックされ、
(誰だろ?)
(さぁてぇね?)
 首を傾げ合っていると、扉の向こうから、

『姐さぁ~ん、大丈夫スかぁ~い?』
「「!」」

 声の主は、ターナップ。
 未だ声を張れるほど回復しきれていないラミウムは、
「ラディ、入れておやりぃな」
「うん。分かった」
 笑顔で頷くと、扉に向かって、
「ターナップさぁん、どうぞぉ」
 すると扉の向こうから、

『済まねぇっス、ラディの兄貴ぃ』

 木戸がキィと小さな音を立てて開き、半開きの戸の陰から中の様子を窺う様に、
「姐さぁん……加減はどぅスかぁい?」
 ターナップが不安げな顔をニュッと覗かせた。

 しかしラミウムは、彼の不安を鼻先でフッと笑って一蹴し、
「アタシぁ、そんなヤワじゃないさぁねぇ」
 ラディッシュに上半身を起こしてもらいつつ、
「なぁ~に、飯でも食って一晩も寝りゃ明日には元通りさぁね」
 強がりであるのは素人目から見ても明らかであったが、荒い口調で「周囲をそれとなく気遣うラミウム」を、ターナップは彼女らしいと思い、同時に、強がりが言える程には回復した姿に、

「そうスかぁい」

 安堵し、少し胸を撫で下ろした。
 するとその様子に、何か良からぬ事を思いつくラミウム。
 その毎度の「からかい交じりの皮肉った笑み」からラディッシュは企みを察し、
(また何か、ロクでもない事を考えてる)
 小さく苦笑っていると案の定、

「それよりアタシぁ「オマエさんの方が」心配さぁねぇ?」
「何が、でスかぁい?」
「それだよ、ソレぇ」
「それ?」

 キョトン顔で首を傾げると、

「すっかり「ガラの悪さ」が出ちまってぇ」
「!」
「んなぁガラッパチでぇ信徒にシメシがつくのかぁい?」

 呆れた風のヤレヤレ笑いに、司祭と言う立場にあるターナップが動揺するかと思いきやドコ吹く風。ケラケラ笑いながら、
「アレぁ余所行きの顔っスよぉ。悪童だったオレを知ってる村の連中は、むしろムズ痒がってんじゃないっスかぁね?」
「だとしてもぉさぁね、跡取りがコレじゃぁ、アタシぁこの村の先行きが心配だよぉ」
 からかいを交じえた苦笑を浮かべたが、ターナップはニカッと笑い返し、

「何言ってんスかぁ、姐さぁん♪」
「ん?」
「んなぁモン、姐さんが作ったぁ「数々の伝説」に比べりゃぁ、」

「ちょ!」

 ギョッとするラミウム。
 封印したい「若気の至り」が数々あるのか、珍しく狼狽を露わに、

「ちょ、ラディの前でお止めぇ! あっ、アタシぁこれでも百人の天世だよぉ! アタシにも立場ってもんがぁね!」

 思いがけず立場が逆転し、慌てて取り繕おうとすると、
(ラディの兄貴の前でぇ?!)
 とある事実に勘付くターナップ。

 ラミウム本人に自覚は無い様に窺えるが、ラディッシュに対し、特別な感情を少なからず抱いている気配に。
(ほほぅ~勝ち気な姐さんが、ラディの兄貴にねぇ~)
 生温かい笑みを浮かべ、

「な、何だぁいター坊そのヌルイ目はぁ! 言いたい事があるならぁハッキリ言ったらどぅさねぇ!」

 喚くラミウムを、ラディッシュが困惑笑いで「まぁまぁ」と宥めていると、

(まさかラディの兄貴もぉ?)

 浮いた話が一つも無かった慕う女神の「両想い」の可能性。
 ターナップは保護者の様な立ち位置で「嬉しさ」と同時に、若干の「寂しさ」も感じずにはいられなかったが、当然の様に「嫉妬」も覚えずにいられず、悪い企み顔して、

(コイツぁ「俺の出番」スかねぇ~)

 茶化し半分、鈍い二人の背中を後押ししようと、
「何を「黒歴史」みたいに言ってんスかぁ、姐さぁん♪」
「みッ!?」
(「みたい」じゃないからマズイんだろさぁねぇ!)
 思わず出た口籠りに被せる様に、

「ラディの兄貴だって聞きたいんじゃないスかね? 姐さんの「武勇伝」ってヤツを」
「ぉおバカをお言いでないよぉ! ラディがぁんなヨタ話に興味ある訳がぁ、」

 無いと思って見上げてみれば、
「!?」
 そこには興味津々、目を輝かせるラディッシュの顔が。
「あるのかぁい……」
 困惑顔のラミウム。間髪入れず、ラディッシュの興味を煽り立てる様に、

「どれもこれもラディの兄貴も聞けば惚れるぅ、カッケェ話ばかりなんスよぉ♪」
「ちょ! アタシの許可なく話を勝手にぃ!」

 羞恥顔で怒鳴った刹那、
「のぉお……」
 目の前がクラリ。
「ラミィ大丈夫!?」
 慌てて支えるラディッシュ。

 ゆっくり横に寝かせると、ターナップはここぞとばかり、愉快そうに「シッシッシ」と笑い、
「無理するからっスよぉ、姐さぁん♪」
「ター坊ぉおぉ~アンタぁ~後でぇ覚えておいでぇえぇぇ~~~」
 地の底から湧き出る様な「恨み節」。

 しかしターナップは彼女が動けないのを良い事に、調子に乗って悪い顔してニヘラと一笑い、恨めしそうに見上げるラミウムを歯牙にもかけず、
「そぅっスねぇ~オレが一番惚れた話は……」
 過去に思いを馳せ、ラミウムの「武勇伝(黒歴史)」を、切々と「語り(曝し)」始めた。
 無論、ラミウムが動けるようになった後、熨斗付きで締め上げられたのは言うまでもない話であるが。

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