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 久し振りの食事を終え、ラディッシュにナプキンで口元を拭いてもらい、ぼんやり天井を見つめるラミウム。

 暖かな陽の光が差し込む窓の外からは、鳥のさえずりが聞こえるのみ。

 これほど穏やかな時間は、いったいいつ振りであろうか。
「……静かなモン……さぁねぇ……」
 何の気なしにポツリと呟くと、
「そうだねぇ」
 微笑み頷くラディッシュは、
「食器を片付けて来るから、何か必要な物があったらついでに、」
 おもむろに立ち上がり部屋から出て行こうとすると、
(ここに居てくれやしないかぁい……)
 思い掛けない呟きに、

「えぇ?!」

 驚き固まると、ラミウムも無意識的に口からポロッと出てしまった言葉だったのか、ハッと我に返って自身を「アハハ」と一笑い、

「何でもないさぁね、忘れとくれぇ」

 自嘲気味に小さく笑うと、
「体が弱ると、どぅにも心まで弱るらしいさぁねぇ~」
 ヤレヤレ顔してボヤいて見せた。
「…………」
 いつも勝ち気で、皮肉屋で、人を困らせて楽しむ彼女が見せた気弱な笑顔に、ラディッシュは無言のうち再びイスに座り直し、
「ラディ?」
 そして彼女の手を、そっと握った。

「ちょぉ、ラディいぃ!?」

 激しく狼狽するラミウム。
 しかし体は動かない。
「あっ、アタシが動けないのを良い事にぃ! アンタはどさくさ紛れに何してんだぁい!」
 拒絶ではない。
 隠し切れない照れを必死に誤魔化そうと、噛みつきそうな勢いで喚いているダケなのだが、他意の無いラディッシュは純粋に彼女の身を案じていたダケであり、

≪どうして?≫

 首を傾げると、
 スキル【キラッキラのイケメンスマイル】が、このタイミングで無自覚発動。

(ッ!!!)

 容赦なく見つめられた「心の中のラミウム」は、火の出そうな真っ赤な照れ顔で、
(ヒィヤァアァ! この状況でぇ「その顔」は止めとくれぇえぇえぇぇ!!!)
 鼓動は否応なく高鳴り、この場から今すぐ逃げ出したくなるも体は動かない。

 しかし「元イケてない少年」のラディッシュに、女心の機微など分かる筈も無く、本人としてはいつも通りの笑顔で、
「不安な時はさぁ、人と手をつなぐと心が落ち着くんだよぉ♪」
 スキル強化されたイケメンスマイルに、

(こぉんな状況でぇ落ち着けるもぉんかぁい! イイから離しとくれぇえぇぇえぇぇえ!)

 心の中では大絶叫していたが、勝ち気な彼女にとって男子の前に狼狽を晒すなど「負けに等しい行為」であり、表面上は必死に平静を装い、揺れる女心に必死に抗い、そして捻り出した言葉は、

「こっ、このぉ……スケこまし」
「す、スケっぇえ?!」

 ギョッとするラディッシュ。
 気遣ったつもりが、突如与えられた「女たらし」の称号に、

「ちょ、ひどいよぉラミィ! それに、僕が「単なるヘタレ」なのは知ってるでしょ?!」

 普段通りの気弱な困惑顔を見せると、ラミウムはその「いつもと変わらぬ表情」から心の落ち着きを次第に取り戻し、
(やっぱりアタシぁこっちの方が……)
 フッと小さく笑い、
「冗談さぁね冗談さぁ。だが…………ありがとうなぁ、ラディ」
 すると、からかいにヘソを曲げていたラディッシュも、
「どういたしまして」
 ニッと歯を見せ自然な笑顔で、

「何たって、僕は「ラミィの勇者」だからねぇ♪」
(!)

 その笑顔に、本当の意味でドキリとするラミウム。
(ウソだろぉ……?!)
 ほんのり桜色に染まった顔を隠す様に、唯一動く顔をフイッと背け、

(ふっ、不覚……)
「何が?」

 呑気な首傾げに、まさか呟きが聞かれていたとは思わず、
「何がって……」
(い、言える訳が無いさぁねぇ……)
 気恥ずかしそうに、チラリと様子を窺い見ると、
(のぉ&%$¥#%ーーーッ!?)
 鼻先付きそうな距離にラディッシュの顔が。

 ラミウムは顔から火が出そうな照れ顔で、逆上気味に、
「近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い顔が近いんだぁよぉ! ヘンな事したらタダじゃおかないさぁねぇ!」
「むむむぅ! さっきから何かヒドイ言われようなんだけどぉ心配してるだけなのにぃ」
 イケメンが見せるフグの様なむくれ顔に、ラミウムは思わずプッと噴き出し笑い、

「ナハハハハ。ヘタレなアンタの扱いは「ヒドイ」くらいで十分なのさぁねぇ~」
「もぉ何だよぉソレぇ~」

 憤慨しながらも、笑い合うラディッシュ。
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