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 どれ程の時間が経過したであろうか――

「う……うぅ……」

 徐々に意識を取り戻すラミウム。
 ゆっくりと目を開け、
「ここは……」
 初めに目に映ったのは、木製の梁や天井板。

 意識を失い倒れた事を認識し、
(そうかい……アタシぁ、また気を失って倒れたのかぁい……ヤワに出来てないとか息巻いて、結局このザマ……)
「なんともぉ情けない話さぁねぇ……」
 誰に言うでもなく、小さくボヤくと、

『良かったぁ~気が付いたんだねぇ♪』

 聞き覚えのある、呑気声が。
 横になったまま振り向くと、そこには安堵を滲ませた、穏やかな笑みで見つめるラディッシュの姿があった。
(ラディ……)
 ラミウムは自嘲気味の笑みを口元に浮かべ、
「なぁんかアンタらには……百人の天世人らしくない、みっともない所ばかり見せちまってる気がするさぁねぇ」
 小さく苦笑すると、

「僕たちに、なら良いんじゃない? それに「みっともない」なんて思ってないよ♪」

 ラディッシュは屈託ない笑顔を返し、
「浄化してもらった食事があるよ」
 木彫りのお椀を手に取ると、
「ハイ、「あぁ~ん」て、口を開けてぇ」
 ひとすくいしたスプーンを口元に近づけて来た。

「のォなッ?!」

 ボッと、火のついた照れ顔をするラミウム。
 内なる動揺を誤魔化す様に、
「おっ、おぉおバカをお言いでないよぉ! そんくらぁいアタシ一人でぇ!」
 キレ口調で喚き、体を動かそうとしたが、

(うっ、動かないぃ?!)

 指先一つ動かす事が出来なかった。
「な……なんてぇこったぁい……」
 横たえたまま愕然とするラミウム。
 ショックを受ける彼女を前に、ラディッシュは苦笑しながら、
「そりゃ、そぅもなるよぉ~。だって勇者召喚の日から「全くの飲まず食わず」で、地世の影響まで受け続けて、揚句にあれだけの天法を使ったんだからぁ。僕から言わせてもらえば、今日まで動けてた事の方が奇跡だよぉ」

「むくっ……」

 二度も卒倒し、身動き一つ出来ない現状では言い返す言葉も見つけられず、観念したように、
「……に、しな……」
 か細く、尻つぼみな声に、
「ん? なぁに?」
 聞き取れなかったラディッシュが首を傾げると、

「だからぁ!」

 照れ顔のラミウムはもどかしげに、
「あ、アイツらには内緒にしな! こ、こんな、恥……みっともない食事姿……」
「言わないから大丈夫だよ♪ それに、」
 お椀とスプーンを手に持つラディッシュは、

「ドロプさんは尋問の立ち合いに行ってて、パストさんも、怒って暴走すると思うドロプさんの「抑え役」に駆り出され中だから……」

 次第に暗い顔してうつむき、
「今、ココに居るのは「役立たずの僕だけ」で……」
 今にも泣き出しそうな顔して、
「このうえラミィにまで食事係を断られたら……僕は本当の……」

「だぁ~もぅ分かったよぉ! 仕方ないねぇ!」

「え?」
「アイツ等には「絶対に」言うんじゃないよ!」

 念押しすると照れ顔で大口を開け、パッと笑顔に戻ったラディッシュは、

「分かった!」

 スプーンで一すくい。
 ラミウムの大きく開いた口の中へ、料理を運び入れた。
 口の中で噛むと言うより、すり潰す咀嚼をするラミウム。
 そんな彼女にラディッシュは申し訳なさげに、
「ごめんねラミィ、噛みごたえの無い料理で……でも久々に摂る食事は、コッチの方が体に優しいから我慢してね。体が慣れてきたら、」
 二口目を口元に近づけ、

「ラミィ?!」

 ギョッとした。
 ラミウムの目から、涙が一筋こぼれ落ちたのである。
「ごっ、ゴメンね! 泣くほどイヤだったぁ?! それとも浄化が足りなかったぁ?!!」
 激しく狼狽するラディッシュを前にラミウムはポツリと、

「うま……」
「へ? う、馬???」
「うまいよぉおぉ、らでぃ……」
「!」
「こんなにウマイ飯が食えるなんてぇ~生きてるって幸せな事さぁねぇ~~~」

 感慨深げに泣き笑うラミウムに、
「うん……そうだね」
 ラディッシュも笑顔を見せ、
「二口目をどうぞ♪」
 運び入れ、三口、四口と、器の中はあっと言う間に空になった。
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