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 城内で煙たがられている自覚はあったが、よもやこの様な非常時にまで「知らない」と言われるとは流石に思っておらず、そこまで「嫌われていた事実」にショックを隠し切れずにいた。
 すると、

『キッシッシッ!』

 ラミウムが愉快そうに手を叩いて笑い出し、
「やられたねぇ、ドロプぅ♪」
「ど、どう言う意味ですのぉ!」
 腹立たし気に振り返ると、
「ソイツ等ぁ恐らく「勇者百人召喚の騒ぎ」ん時ぃ、真っ先に城から逃げ出した連中さぁね。おおかたオマエさんの姿を見て「敵前逃亡がバレる」と思って、咄嗟にオマエさんを陥れようと企んだんろうさぁね♪」

『んなっ、ななななぁんああな何ですってぇぇえぇえぇぇ!』

 ドロプウォートは怒り心頭、
「エルブ国の騎士ともあろう者がぁ我が身可愛さに臣民を見捨てぇ真っ先に逃げたァですってぇえぇ?!」
 憶測話ではあるものの、四大貴族令嬢として労を惜しまず「修練と研鑽」を積んでいた彼女を、平和ボケによる「自身の怠惰」を棚に上げ、陰で悪し様に笑っていた連中の姿を思い起こせば、ラミウムの勘繰りも腑には落ち、堪え難き怒りから歯ぎしり、

『何たる怠慢ぁ! なんたる愚行ぉ!! 言語ぉ道断でぇすわぁあぁ!!!』

 怒りに打ち震えたが、若司祭はその姿をも「ククッ」と小さく笑い、

「ここまでの設定を作り上げるとは、いやはや貴方がたは「良い役者」になれますよ」
「!」
「今からでも詐欺師から転職されては如何です? まぁもっとも「刑期を終えた後に」ですが」

 皮肉った笑みに、ムッとするラミウム。
 いつも他人にしている行為だが、自分がされると甚だ癇に障り、
「ケぇッ! 言ってくれるよ、世間知らずのボンボン司祭がぁ! 権力欲に取り憑かれた「司教の犬」の分際でぇ!」
 中世の「全ての司祭」を一瞬のうち敵に回す「NGワード中のNGワード」に、牢番の村人は顔面蒼白、恐る恐る若司祭の顔色を窺い、
(ヒィイッ!)
 声にならない短い悲鳴を上げた。

 これには流石の若司祭も、笑顔のこめかみが怒りでピクピク爆発寸前。
 しかし村人たちの手前、立場を考えてか、激怒は必死に堪えた様子で、引きつる笑顔から出た言葉は、
「貴方にぃは、裁判は不要と言えますねぇ、これほど「品を欠いた天世様」など、あり得はしないでしょうしぃ、即日、火刑送りもお望みの様だぁ」
 結局、単なる買い言葉であった。
 するとケンカを買われたラミウムも、未だ本調子からほど遠いとは言え、三白眼をギラつかせて起き上がり、

『何か言ったかい小僧ぉがァアァ!』
「!」

 更なる事態悪化に慌てるラディッシュ。
「まっ、マズいよ、ラミィ! これ以上、立場が悪くなったら本当に、」
 何とか間を取り持とうとしたが、

『お黙りィ!』
「ひぃう!」

 素気無く鋭く一喝されて身を縮めると、
「この『ラミウム様』が、小僧に舐められっ放しで黙っていられる訳がないだろさぁねぇ!」
 大見得切った途端、

「ラミウム?」

 真顔に急変する若司祭。
「あぁ?! アタシの名前が何だってんだァい!」
 薄暗がりの中で凄む彼女を、上から下までしげしげ見つめ、
「ッ!?」
 黒く変色した両足に驚きを以て目を留め、

『ソイツはぁ地世のチカラの侵蝕じゃねぇかぁ!』

 思わす飛び出る、ラミウムと似た荒い物言い。
 どうやらコチラが素の様で、驚く四人を尻目に鉄格子に取り付き興奮気味に、

「するってぇとぉアンタは「モノホンのラミウム様」なのかぁい!」
「だからそうだつってんだろぉが、このスットコドッコイがぁ!」

 苛立つラミウムは半ギレしたが、若司祭は気にする素振りも無く前のめりで急く様に、
「ぉ俺っス、姐さぁん! オレの事を覚えてやせんかぁ!!!」
「はあぁ?」
 怪訝な不機嫌顔に、
「十年くれぇ前ぇ! オレがガキん頃ぉ! 地世信奉者の連中に騙されてボコられそうになったトコを!」
「ったく何を言って、アンタなんざぁ……」
 素っ気無くあしらおうとしたラミウムであったが、

(いや待てよ……そう言やぁ、この顔どっかで……)

 記憶を遡り、やがて若司祭の顔立ちの中に、かつて縁を持った男児の面影を見出し、
「アンタまさか……ター坊……ターナップ……なのかぁぃ?」
 すると若司祭は笑顔満面、少年の様な笑顔で、

『そぅッス!』

 喜び笑って見せたが「ラミウムは」と言うと、

「分かったんならぁ、とっととココから出しなァ!」

 懐かしむでもなく容赦なく、ヤンキー張りのイキ顔で一喝。
 憐れ、若司祭は再会の感動に浸る間もなく、
「すっ、すんませんしたぁ、ラミ姐さぁん!」
 舎弟の様に平身低頭、頭を下げ、

「牢番! ボサっとしてねぇで、とっとと牢屋を開けねぇかぁ!」
「でぇ、ででででですがぁ若司祭様ぁ!」

 渋る村人は、
「かっ、勝手したらぁ後で大司祭(おおしさい)様にぃ!」
 激しく狼狽、上司を引き合いに出して拒んで見せると、

『グダグダ言ってんじゃねぇ!』
「ヒィ!」

 指示に従わない事を、暗に怒鳴ったのではなく、
「ジジィはとうに隠居して、今仕切ってんのは「このオレ」だァ!」
 現在の責任者としてのプライドを著しく傷つけられた事に激怒すると、今にも殴られそうな剣幕に、
「はひぃ!」
 村人は慌てて解錠して扉を開けた。

「すいやせんした、ラミ姐さん方ぁ! ウチのモンが、大変失礼しやした!」

 深々頭を下げる、若司祭ターナップ。
 牢の外へ出る様に促すと、ベッドに座るラミウムは、
「テメェの独断で、上司(大司祭)の上前を撥ねるとはねぇ……」
 不敵にニヤリと笑い、
「イイ漢になったじゃないかい、ター坊ぅ」
 気骨を喜ぶと、

「俺が慕う上司は「ラミ姐さんダケ」っスから!」

 返した笑顔は、彼女の記憶の中の「無邪気な少年の笑顔」とオーバーラップした。

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