上 下
73 / 706

1-73

しおりを挟む
 ドロプウォートとパストリスの融和? から数日後――
 
 進めど進めど、うっそうと茂る森の景色に変化は無く、城に近づいていている気配も微塵に感じられなかったが、他に頼る術を持たないラディッシュ、ラミウム、パストリスの三人は、今日も先陣切って歩くドロプウォートの知識を頼りに移動を続けていた。
 もはや定位置と化したラディッシュの背で揺られ、

「ははぁ~今日も空が、青いさぁ~~ねぇ~~~」

 呑気に、木々の間にのぞく青空を見上げるラミウム。
 先日のドロプウォートの大失態により、結局ほんの僅かしか回復出来なかったラミウムは、足の黒ずみも戻り、未だ一人で歩く事さえ出来ずに居たのである。

 穏やかな木漏れ日が降り注ぐ空を見上げたまま、
「アタシ等ぁ~飛ばされてからぁ~いったい何日経つのかねぇ~」
 暗に、城に中々着かない事を愚痴って見せたのだが、それはラディッシュとパストリスも同じであり、三人の「不安な視線」は、おのずと数メートル前を導き歩く「器用貧乏ドロプウォート」の背に向けられた。
 すると何かを察した如くにドロプウォートが前を向いて歩いたまま、

「私の計算では城に着く前に、まず「村」に着く筈ですわ」 

 憂いや陰りを感じさせない笑顔で勢いよく振り返り、
「ですから「城が見えず」に、未だ「村にも着いていない」と言う事は、方角が合っていると言う証なのですわ!」
 自信満々のドヤ顔で言ってのけた。
 しかし、

(((それって「逆方向」でも村に着かないんじゃ……)))

 心の中でツッコミを入れるラミウムたち。
 機嫌を損ねると後が面倒と思い、顔で笑って、心で不安を募らせると、人の「マイナス感情に関してダケ」は察しの良いドロプウォートが、三人の腑に落ちない笑顔にムッとして、

「私の知識に何かご不満でもぉ!」
「「「!?」」」

 よもや見透かされるとは思っていなかったラミウム達は、慌てて宥めすかす様に、取り繕う様に、
「わぁ~てるよぉ、わぁ~てるさぁねぇ、信じてるよぉ、なぁ♪」
「う、うん! 僕たち疲れ気味のせいか、つい不安になっちゃってぇ、ねぇ♪」
「はっ、はいでぇす! 信じてまぁすでぇすぅ! よろしくお願いしますでぇす♪」
 苦し紛れの笑顔。
「…………」
 しばし、疑いの眼差しを向けるドロプウォート。やがて鼻息荒く「フン」と背を向け、

『分かれば良いですのわぁ! 分かればぁ!』

 些か不機嫌そうに言い放ち、
「先を急ぎますわよぉ!」
 再び先陣切って歩き始めた。
 黙ってついて来いと言わんばかりの背に、苦笑を見合わせる三人。
 
 しかし「人の顔色を窺う事」に長けたラディッシュだけは、気付いていた。
 一見すると横柄に見える彼女の「強気な態度」が、実は「不安の裏返し」であるのに。
(かなり無理をしてるみたいだなぁ)
 その気遣いは正解で、道案内を買って出た責任の重さから、

(うぅ……何やら胃が痛いですわぁ……)

 人並みに重圧を感じ、三人分の懐疑の眼差しを背で感じつつ、
(だからと言って先導役の私までもが「不安を露わ」になど、する訳には参りませんですわ!)
 決意を新たにしたが、豊富な知識と実力を全く生かしきれていない大失態の数々から、本音の部分では焦りが募り、
(あぁ~は言い切りましたけど……実は「方角を間違っていた」なんて事はありませんわよねぇ?!)
 自問し、
(まっ、まさかぁこのまま城に着けず、永遠の放浪の旅をぉ?!)
 最悪を自答すると、おのずと悲観が首をもたげ、

(お願いですから「村さん」早く出て来て下さいませぇ~~~)

 祈る思いで歩みを進めたが、願いの強さと相反する様に、更に日々を重ねても状況に変化はなく、村の「む」の字も現れる気配はなかった。
 それでも、自信たっぷり先頭を歩いて見せるドロプウォート。
 彼女に今出来るのは、皆を少しでも不安にさせない「ソレだけ」であったから。
(はぁ……)
 心の内で大きなため息を吐き、

(やはりワタクシ……またぁまたぁやってしまいましたのねぇ……)

 浴びせ掛けられるであろう罵詈雑言の数々を妄想し、謝罪のタイミングを探しながら先頭を歩いていると、唐突に背後から、

『おい、ドロプゥ!』

 何の前触れもなくラミウムの呼び声が。
「はひぃ!」
(謝罪の機会を得る前に呼ばれてしまいましてですわぁ!)
 素っ頓狂な声を上げて背筋を伸ばすと、
「アンタぁ、どっから声を出してんのさぁねぇ?!」
 半笑いのラミウムが、定位置の「ラディッシュの背から」の上から目線のしたり顔で、
「やりゃぁ出来るじゃないさぁねぇ」
「へ?」
「「へ?」じゃないよ……アンタ気付いてないのかぁい? 「浄化領域」に入ったのさぁね」
「・・・・・・」
 頭の処理が追い付かない、キョトン顔のドロプウォート。
 一方、聞き慣れない言葉を耳にしたラディッシュは、背のラミウムに肩越し振り返り、

「ねぇ、ラミィ。「じょうかりょういき」って……何?」
「あん? あぁ~そうかい。まぁアンタが知らないのは当然さぁね」
「そうなの?」
「この世界は教会を中心に、天世のチカラで「浄化領域」ってのを作っていてねぇ、町や村、城なんかもその上に建ってんのさぁね。だから「汚染獣」や「地世のチカラ」は、簡単には町ん中にまで及ばないのさぁね」
「つまりはでぇすよ、ラディさん。ボク達が「浄化領域に入った」と言う事は、村や町が近いと言う証なんでぇす!」

 パストリスの笑顔に、
「じゃ、じゃあ僕たち、ついに戻って来れたんだねぇ!」
 ラディッシュも笑顔満面で振り返り、人知れず心労を重ねていたドロプウォートに、
「凄いよ、ドロプさぁん! 地図も無しに、僕たち生きて城に帰れるんだよぉ!」
 賛辞を贈ると、石の様に固まっていたドロプウォートが、

「よ…………」
「「「よ?」」」

「よがぁっだぁでず(良かったです)ばぁあぁあぁぁぁああぁ!」

 綺麗な顔をクシャクシャにして、大声を上げて泣き始めてしまった。
 そんな彼女を、

「あははは。僕たちが思ってたよりずっと、不安だったみたい」
「そうみたいでぇすねぇ」
「そりゃぁそぅさね。連日アレだけやらかしてりゃぁ、余程の神経無しでもない限り、不安にもなるだろぅさねぇ」

 生温かい眼差しで見守る三人であった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...