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 足下に広がるは、3D映画の様な激突を意識させる映像で停止する、ゴツゴツとした黒い岩肌と、全てを飲み込まんと激しく逆立つ白波。

(あ、あとちょっとで僕はアノ岩に……)

 荒波と強風に削られ、凹凸の激しい巨大な石包丁の様な大岩を、少年は冷や汗と共に凝視し、肉塊と化していたであろう自身の姿を想像して息を呑むと、

「契約を拒否られたってぇアタシぁ別に構いやしないさぁね」

 ヤンキー女神は見放す様にひょうひょうと言ってのけ、
(え? で、でもさっきクビにされるからってぇ?!)
 慄く少年を更に突き放す様に、
「職業安定所にでも行きゃあ、当面の飯にはありつけるからねぇ」
「職?!」
「ただし!」
「!?」
 ビクリとする少年に、眼下の岩肌をチラリと見てから、愉快そうに「クックックッ」とひと笑。

「オマエさんは、どぅなるのかねぇ?」
「!」

 受け入れた筈の死が、人と話をした事で、冷静さを取り戻すと共に恐怖となって覆り、
(こっ、怖いぃ……)
 顔は青ざめ、腹の底から「死への恐れ」が滲み出て来た。

(ココだ!)

 表情変化を見逃さなかったヤンキー女神。すかさず追い打ちをかける様に、
「アタシがこのチカラを解除した途端、アンタはアノ岩と激しいディープキスさぁね」
「ッ?!」
「ファーストキスが地球とは、クックックッ! なんともスケールのデカイ最期じゃないかい!」
「なんで(初めてって)知ってるんですかぁぁあぁぁぁぁ?!」
 思わずツッコム少年ではあったが、死への怖さを思い出した今、彼の選べる選択肢は一つしか残されていなかった。
 ニヤつくヤンキー女神がチラつかせる同意書をおずおずと受け取ると、捺印欄に親指を押し付け、指紋が転写。
 インクも無しに拇印が出来た事に驚く余裕さえ無く、
「や……」
「や?」
「優しくしてね……」
 気弱く呟くと、

「おぅさアタシに任せときなぁ!」

 ヤンキー女神は勝ち誇った様に同意書を高らかに振りかざし、

『アタシの名は『ラミウム』さぁね! これからアタシがアンタにふさわしい強力な「勇者ステータス」を振って向こうに送ってやんよォ!』

 少年は目も眩む光に包まれ、眩しさから思わず目を閉じると、
(うくっ……)
 軽いめまいを感じた。
 それは異世界転生に伴う反作用であろうか。
 間を置かず、地に足が着いた感覚を覚え、

(つ、着いた……のかなぁ?)

 聴力も瞬間的に失われていたのか、無音の世界から音が次第に聞こえ始め、やがてソレは大きくなり、
(何か周りが騒がしい様な……)
 喧騒に薄目を開けると、

『のぉわぁ!』

 驚きのあまり、大きくのけ反った。
 目の前にスラッと足の長い、軽鎧を纏ったサラサラヘアの八頭身イケメン少年が、此方を向いて立っていたのである。
 彼もまた、突然目の前に現れた少年に驚いたのか、同じ様にのけ反っていて、少年は見ず知らずの人を驚かせてしまった事に、

「すみませんすみません! 僕なんかが驚かせてしまってすみませぇん!!!」

 条件反射的に何度も頭を下げたが、

「…………」
(あれ?)

 返らぬ言葉に違和感を感じ、そっと顔を上げると、イケメン少年も同じ様に顔上げた。
「?」
 少年が右手を上げると、イケメン少年も。

「鏡ぃ?!」

 それは高さが三メートルは優にあろうかと言う、巨大な立ち見鏡であった。
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