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六月十一日(火)
しおりを挟む個展は目前。
空間のイメージはできている。
けれど、毎度のことだけど、実際作品をその場に置いてみないと最後までわからない。
あたしの絵は重量級なので、空間容積とのバランスが重要なのよね。
観に来たお客さまたちが酸欠で呼吸困難になるといけないんだもの。
その場でレイアウトを考えるプレッシャーとわくわく感……やめられませんわ笑
絵画展というよりインスタレーションに近づけたい。
とは言っても、ものが出来上がっていないことにはどうしようもない……
個展を目の前にして、どうにも描く気の起こらない辛さ。
「曖琉ちゃん、どーーーーにでもなるわよ! あのね、土壇場になるとなぜか不思議と仕上がってるものなのよ」
絵描き界に留まらず、最大限に敬愛する人生の大先輩が、通話で包み込むようにお尻を叩いてくれる。
無理矢理にでも、毎年個展を開いていくきっかけを作ってくれた大恩人。
「あなた、長いこと生き辛くて、何度も消えたいって繰り返してたけど、今、生きてるわよね。ということは、どういうこと?」
「あたし、生きてます……」
「ということは、何とかなってるってことじゃない。人生なんて何とかなるのよ。だから、絵だって何とかなるのよ」
そっか、そうだよな。
あたし、その女神さまの言葉で強張ってたからだがほぐれた気がする。
「あの人に観てもらいたかったわね」
「……きっと雲間をぬって旋回しながら、相変わらずきたない絵だなって笑ってます。もう一年……今更ながらさすがのあたしも驚くほど感傷的です」
「そうね……きのこの片割れくんは来るのかしら」
「……彼は……蒼は来ないと思います」
「そう……残念ね」
そう、何とかなるのよ。
あたしの帰る場所はあたしの中にしかないのだから、自分を信じていれば。
苦しくても……ね。
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