里中曖琉の些細な日記とか（Jun.2024)

六月一日（土）

　土曜の午後は教会に行くの。
　先週の続きのダビデとゴリアテのお話を牧師さんがしてくれるから。
　そのあとのスコーンとシュガーたっぷりの紅茶が楽しみだから。
　だから本屋さんのバイトは午後一時まで。
　あと少し。

「あの、すいません。『夕暮れの神楽坂では』という小説を探してるのですが置いてないですか」
　パナマハットを被った背の高い青年が訊ねてきた。
「夕暮れの……？　それは……溝巻希の短編集『駅から歩いて十二年』の中に収録されているものですね、お待ちください」
　あたしは文芸書コーナーに急いだけれど、やっぱり書棚には無かったので、注文を受けることにした。
　この青年は、あの人の作品を読んでくれるんだ。
「どうしてこの小説を？」
「僕も物書きなんです。以前文芸誌で読んだ彼の小説がもう一度読みたくて」
「そうですか、ありがとうございます」
　綺麗な手をしている。
　青年はどことなく蒼と似てる匂いがした。
　見た目は全然違うけどね。
　
　天気予報は夕方からまた雨だ。
　置き傘、持ってった方がいいね。

　さあ、軽い昼食を摂って午後の教会へ行こっと。