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四月二十九日
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キシロカインの空瓶のぶつかり合う音
昨夜は一晩中、物語を作りながら歌を歌いながら瓶に色を塗って遊んだね
一瓶一瓶に希望も悪夢も詰めて
ふたりでどれくらい塗ったんだろう
手も足も頬っぺたも絵の具だらけだね
まだまだいっぱいあるよ
こーんなにいっぱいあるんだけどさ、みーんなおんなじ形なんだけどさ
いっこいっこほら、音が違うんだよ
麻酔の名残なのか、透明硝子のくせにどことなく丸みが麻痺してるんだよ
それにさ、ほら、耳を瓶のおちょぼ口に近づけてみて、どれでもいいから
何が聴こえる? 風の音? 波の音? 肉球の触れる音? 月の欠ける音? 飛蝗の羽音? 髪を切る音? 紙を破く音? 靴を脱ぎ捨てる音? 血液の流れる音?……
僕はアイネ・クライネ・ナハトム・ジーク2楽章が、遠くの方から風の波にうねうねしながらゆっくり聴こえた
いくつもの小さい夜に散らばった夢を、果てしなくアンダンテで乗り越える?
あたしが手にしてるこの瓶からはね、すごいんだよ
ボカロっぽい祓詞が繰り返されるんだよ
天体を動かす呪文みたいに聴こえたよ
不思議だね~
それからさ、瓶のおちょぼ口をほんのちょっとだけ覗いてみて
瓶によっては目をやられてしまうから、あんまりくっつけすぎないで
場合によったらサングラスをかけることをお勧めするわ
あたしはあっちの瓶で三重の虹の生える瞬間を見たんだよ
三重なんだけど虹の根っこは一緒なの
そっちの瓶は水平線が垂直に立ち上がってたし、鯨がそこ登ってた
僕のは真っ青な空とペトログリフだ!
大きな岩に刻み込まれた文字が浮き上がって動き回ってる
天体を動かす数式みたいだ
こっちのは空がありえないくらい黄色くて、破壊された土偶が使命を全うしようとしてる
君も見てみろよ、ほら
気をつけてよ、吸い込まれちゃうんだから
中を覗いたら、素早く好きな色を塗っちゃって
だから、ずっと覗いてたら危険なんだってば
さあ封印封印、瓶を紐で縛るのよ、早く手伝って
……僕、瓶を覗いて色を塗ってたら、君を連れてっても大丈夫ってちょっと思っちゃったんだ
戻って来れるかわからない危険な道行きだしよくわからないけど、君なら一緒にわくわくできるんだろうなって思っちゃったんだ
ペトログリフの刻み込まれた古にさ……だめなのにさ……
何? なんか言った?
ああっ、寝てる!
もう、手伝ってよ、ひとりで全部封印するのしんどいんだから
まあ、昨夜寝てないんだもんね
今のうちにため寝を山ほどしておかないとね、大事な出発の日のために
あたしは、今日という休日は、とことんキシロカインの瓶の魔力を封印しまくることに決めたの、文句ある?
ああ、あなたは寝てて! いいから寝てて! 寝ろ!
今日しかないのに、こんなに傍にいられるのは今日しかないのに、あなたと話すことが苦しくなったのです
そこにあなたがいるのが苦しくなったのです
ひとりよりふたりの方が寂しくなるってことだってあるんだよ
昨夜は一晩中、物語を作りながら歌を歌いながら瓶に色を塗って遊んだね
一瓶一瓶に希望も悪夢も詰めて
ふたりでどれくらい塗ったんだろう
手も足も頬っぺたも絵の具だらけだね
まだまだいっぱいあるよ
こーんなにいっぱいあるんだけどさ、みーんなおんなじ形なんだけどさ
いっこいっこほら、音が違うんだよ
麻酔の名残なのか、透明硝子のくせにどことなく丸みが麻痺してるんだよ
それにさ、ほら、耳を瓶のおちょぼ口に近づけてみて、どれでもいいから
何が聴こえる? 風の音? 波の音? 肉球の触れる音? 月の欠ける音? 飛蝗の羽音? 髪を切る音? 紙を破く音? 靴を脱ぎ捨てる音? 血液の流れる音?……
僕はアイネ・クライネ・ナハトム・ジーク2楽章が、遠くの方から風の波にうねうねしながらゆっくり聴こえた
いくつもの小さい夜に散らばった夢を、果てしなくアンダンテで乗り越える?
あたしが手にしてるこの瓶からはね、すごいんだよ
ボカロっぽい祓詞が繰り返されるんだよ
天体を動かす呪文みたいに聴こえたよ
不思議だね~
それからさ、瓶のおちょぼ口をほんのちょっとだけ覗いてみて
瓶によっては目をやられてしまうから、あんまりくっつけすぎないで
場合によったらサングラスをかけることをお勧めするわ
あたしはあっちの瓶で三重の虹の生える瞬間を見たんだよ
三重なんだけど虹の根っこは一緒なの
そっちの瓶は水平線が垂直に立ち上がってたし、鯨がそこ登ってた
僕のは真っ青な空とペトログリフだ!
大きな岩に刻み込まれた文字が浮き上がって動き回ってる
天体を動かす数式みたいだ
こっちのは空がありえないくらい黄色くて、破壊された土偶が使命を全うしようとしてる
君も見てみろよ、ほら
気をつけてよ、吸い込まれちゃうんだから
中を覗いたら、素早く好きな色を塗っちゃって
だから、ずっと覗いてたら危険なんだってば
さあ封印封印、瓶を紐で縛るのよ、早く手伝って
……僕、瓶を覗いて色を塗ってたら、君を連れてっても大丈夫ってちょっと思っちゃったんだ
戻って来れるかわからない危険な道行きだしよくわからないけど、君なら一緒にわくわくできるんだろうなって思っちゃったんだ
ペトログリフの刻み込まれた古にさ……だめなのにさ……
何? なんか言った?
ああっ、寝てる!
もう、手伝ってよ、ひとりで全部封印するのしんどいんだから
まあ、昨夜寝てないんだもんね
今のうちにため寝を山ほどしておかないとね、大事な出発の日のために
あたしは、今日という休日は、とことんキシロカインの瓶の魔力を封印しまくることに決めたの、文句ある?
ああ、あなたは寝てて! いいから寝てて! 寝ろ!
今日しかないのに、こんなに傍にいられるのは今日しかないのに、あなたと話すことが苦しくなったのです
そこにあなたがいるのが苦しくなったのです
ひとりよりふたりの方が寂しくなるってことだってあるんだよ
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