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四月二十八日
しおりを挟む地元市の健全なる美術展のための作品搬入をした。
毎年出品作品の高さが凡そ2mくらいあるから、画材屋さんにトラックで引き取りに来てもらっている。もちろん有料である。
でも今年は意識して凡そ75cm角の、何とか自分で運べる小さめの絵をチョイスした。理由はちゃんとある。7月に控えている個展の搬入出費用がおそろしく高いからなのだ。
少しでも節約しようと、健気にもあたしってばふぅふぅ言いながら、やや風に煽られ気味に、徒歩と電車でホールまで運ぶ。線維筋痛症の身体は少々痛むが、節約の方が今は大事なのだ。
キョロキョロしながら搬入受付近くまで行くと、
「あー、来た来た」って出迎えられて驚いた。あたしが名乗るまでもなく、
「大きいのが出品されてなかったから、どうしちゃったんだろうって噂してたんだよ」
そう言われて、また驚いた。
いつも画材屋さんに頼んでいるし、おそらく顔を合わせることなど滅多にないのに、マスクで半分隠れたあたしの顔と名前が一致してるのか。
地元の作家さんたちとはほとんど交流がないあたしとしては、ちょっとうれしかった。
*
けれど、その中に決して視線を合わせようとしない、しかも年に数度顔を合わせる絵描きがいた。
上野の美術展で一緒になる絵描きのひとりだ。実は地元が一緒なのだ。
書く前から笑ってしまいそうだが、彼女はあたしが声を掛けるなり、
「う、変な人が来た! 変てこ菌が移るから早く帰ってくれないかな」って、横目で睨みながら言う。
「う~ん、どこからどう見てもあなたの方が百億倍変だと思いますよ」って、正面からにまにましながら返してやった。あたしよりかなりの年長だけど、平気平気(笑)
風貌からして、ふさふさのツインテールにヒステリックグラマーを好んで着てる彼女が、何故か見ようによっては駅とか公園にいる住所不特定のおばちゃんに見えてしまう(笑)
事実、駅構内で彼女だと思って、どうしちゃったんですか! と、見知らぬおばちゃんに声を掛けてしまい謝ったことがある。
(そう思っている絵描き仲間は少なからずいるけど本人にはもちろん内緒! しーっ!)
つまりものすごい個性的で独自のセンスが光ってることを自覚してるってこと。これは嫌味でも何でもなくて。
彼女の絵は繊細で実力派、盲学校の教師なんだ。
で、あたしの絵が嫌いって公言してる。
絵を隣に並ばせたくないっていつも面と向かって言ってくる(笑)
絵描き仲間内では、あたし達の見た目と創り出す絵が逆に見えるって定評なのだ。どういうこと?!!
付け加えるなら、彼女は勤め先のクリニックの患者でもある。診察室から順番で彼女の名前を呼ぶ時、吹き出すのを堪えるのに苦労してるのだ。
ドクターやナース達もある意味一目おいている(笑)
あの憎めないガサツさと繊細な絵とのギャップは才能だなって思う。
個展の案内状を渡したら、
「チッ、遠いから行かねえよ」だって笑笑笑
うわ~、彼女の強烈なキャラをあなたにも紹介したかったな~。
「うわ~、刺激強そうだなぁ。断然興味湧いた」
「でしょ~、きっと彼女の逞しさと繊細さと見た目の奇抜さは、あなたの専門分野の神代の時代の女性像に繋がるかもね」
「会期中に会えるかな」
「……残念ね、展覧会、あなたが旅立ったあとなのよ」
「今度は危険を伴うかもしれないけど、すごくわくわくしてるんだ。何が起こるかわからないし、何を発見するのか、何が見られるのかもわからない。だから準備だけはいつもより用意周到さを念入りにしてるんだよ」
「危険て何が?」
「時代を超えるのさ」
「ふふふ、新しい発見があるといいね。あ、明日は昭和の日、お休みだ~! あなたが行ってしまう前に、今夜は思い切り遊びたい、いいでしょ?」
鈍間のあたしはその時気づかなかったんだよ……
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