上 下
28 / 30

四月二十八日

しおりを挟む
 

 地元市の健全なる美術展のための作品搬入をした。

 毎年出品作品の高さが凡そ2mくらいあるから、画材屋さんにトラックで引き取りに来てもらっている。もちろん有料である。
 でも今年は意識して凡そ75cm角の、何とか自分で運べる小さめの絵をチョイスした。理由はちゃんとある。7月に控えている個展の搬入出費用がおそろしく高いからなのだ。
 少しでも節約しようと、健気にもあたしってばふぅふぅ言いながら、やや風に煽られ気味に、徒歩と電車でホールまで運ぶ。線維筋痛症の身体は少々痛むが、節約の方が今は大事なのだ。
 キョロキョロしながら搬入受付近くまで行くと、
「あー、来た来た」って出迎えられて驚いた。あたしが名乗るまでもなく、
「大きいのが出品されてなかったから、どうしちゃったんだろうって噂してたんだよ」
 そう言われて、また驚いた。
 いつも画材屋さんに頼んでいるし、おそらく顔を合わせることなど滅多にないのに、マスクで半分隠れたあたしの顔と名前が一致してるのか。
 地元の作家さんたちとはほとんど交流がないあたしとしては、ちょっとうれしかった。

     *

 けれど、その中に決して視線を合わせようとしない、しかも年に数度顔を合わせる絵描きがいた。
 上野の美術展で一緒になる絵描きのひとりだ。実は地元が一緒なのだ。
 書く前から笑ってしまいそうだが、彼女はあたしが声を掛けるなり、
「う、変な人が来た! 変てこ菌が移るから早く帰ってくれないかな」って、横目で睨みながら言う。
「う~ん、どこからどう見てもあなたの方が百億倍変だと思いますよ」って、正面からにまにましながら返してやった。あたしよりかなりの年長だけど、平気平気(笑)
 風貌からして、ふさふさのツインテールにヒステリックグラマーを好んで着てる彼女が、何故か見ようによっては駅とか公園にいる住所不特定のおばちゃんに見えてしまう(笑)
 事実、駅構内で彼女だと思って、どうしちゃったんですか! と、見知らぬおばちゃんに声を掛けてしまい謝ったことがある。
 (そう思っている絵描き仲間は少なからずいるけど本人にはもちろん内緒! しーっ!)
 つまりものすごい個性的で独自のセンスが光ってることを自覚してるってこと。これは嫌味でも何でもなくて。
 彼女の絵は繊細で実力派、盲学校の教師なんだ。
 で、あたしの絵が嫌いって公言してる。
 絵を隣に並ばせたくないっていつも面と向かって言ってくる(笑)
 絵描き仲間内では、あたし達の見た目と創り出す絵が逆に見えるって定評なのだ。どういうこと?!!
 付け加えるなら、彼女は勤め先のクリニックの患者でもある。診察室から順番で彼女の名前を呼ぶ時、吹き出すのを堪えるのに苦労してるのだ。
 ドクターやナース達もある意味一目おいている(笑)
 あの憎めないガサツさと繊細な絵とのギャップは才能だなって思う。
 個展の案内状を渡したら、
「チッ、遠いから行かねえよ」だって笑笑笑

 うわ~、彼女の強烈なキャラをあなたにも紹介したかったな~。

「うわ~、刺激強そうだなぁ。断然興味湧いた」
「でしょ~、きっと彼女の逞しさと繊細さと見た目の奇抜さは、あなたの専門分野の神代の時代の女性像に繋がるかもね」
「会期中に会えるかな」
「……残念ね、展覧会、あなたが旅立ったあとなのよ」
「今度は危険を伴うかもしれないけど、すごくわくわくしてるんだ。何が起こるかわからないし、何を発見するのか、何が見られるのかもわからない。だから準備だけはいつもより用意周到さを念入りにしてるんだよ」
「危険て何が?」
「時代を超えるのさ」
「ふふふ、新しい発見があるといいね。あ、明日は昭和の日、お休みだ~! あなたが行ってしまう前に、今夜は思い切り遊びたい、いいでしょ?」

 鈍間のあたしはその時気づかなかったんだよ……


しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

里中曖琉の些細な日記とか(Jun.2024)

弘生
現代文学
小説「曖琉のなんでもない日常」の里中曖琉が書きたい時に気まぐれに書く、ただの独り言のリアルタイム日記です。 代筆者の弘生の投稿が遅いので、多少の日付の遅延があります。

無垢で透明

はぎわら歓
現代文学
 真琴は奨学金の返済のために会社勤めをしながら夜、水商売のバイトをしている。苦学生だった頃から一日中働きづくめだった。夜の店で、過去の恩人に似ている葵と出会う。葵は真琴を気に入ったようで、初めて店外デートをすることになった。

まことしやか日記とか(Feb.2024)気まぐれ編

弘生
エッセイ・ノンフィクション
気まぐれに書きたい時に書く備忘録的な日記擬きです

諭吉の旅

採点!!なんでもランキング!!
現代文学
時代は現代、一枚の一万円札として生を受けた福沢諭吉。 一万円が様々な人々の手に渡っていく中で、その人間模様が福沢諭吉の視点で語られていく。

【新作】読切超短編集 1分で読める!!!

Grisly
現代文学
⭐︎登録お願いします。 1分で読める!読切超短編小説 新作短編小説は全てこちらに投稿。 ⭐︎登録忘れずに!コメントお待ちしております。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

シニカルな話はいかが

小木田十(おぎたみつる)
現代文学
皮肉の効いた、ブラックな笑いのショートショート集を、お楽しみあれ。 /小木田十(おぎたみつる) フリーライター。映画ノベライズ『ALWAIS 続・三丁目の夕日 完全ノベライズ版』『小説 土竜の唄』『小説 土竜の唄 チャイニーズマフィア編』『闇金ウシジマくん』などを担当。2023年、掌編『限界集落の引きこもり』で第4回引きこもり文学大賞 三席入選。2024年、掌編『鳥もつ煮』で山梨日日新聞新春文芸 一席入選(元旦紙面に掲載)。

処理中です...