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四月二十六日

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「どこから蚊が迷い込んだのかしら。殺虫剤を用意したわ」

 可哀想だなぁ。

「あなたはふつうに掻い掻いで済むかもしれないけれど、あたしはそうはいかないのよ。真っ赤に地腫れして、とびひ状態になるのよ。だからごめんなさいね」

 シューーーーーーーーーーーーー!

 うわぁ、うそだろ! ぼくのコーヒーがあるんだぞ! 殺虫剤が入っちゃうじゃないか! それに、なんで一匹の蚊にそんなにいっぱい撒くんだよ~!

「ごほごほごほっ」

 君だって咳き込んでるじゃないか。

「だって蚊がどこにいるかわからないんだもの」

 見つけたらピンポイントで仕留めればいいじゃないか。

「ふん、ならあなたが仕留めてよ! あたしは寝るから!」


 ぼくは夢を見た。
 カーテンのひだひだに黒い大きな影が……恐竜か、映画の観すぎだ。
 Gか?
 よし、蚊じゃないけれど、一噴きで仕留めてやる!
 シュッ!!!
 しまった、素早い!

 けれどカーテンから姿を現したのは小さな蜥蜴。
 青い筋が光っている。
 こちらをじっと見たかと思うと素早い動きでどこかにするすると姿を消した。

 仕留めなくてよかった、と思ったところで目が覚めた。

 ふと君の口を開けた寝顔を見た。
 蚊に刺されないですこすこ眠っている。
 ふふふ、平和な奴め。
 もうすぐ夜が開けるから、それまで目覚めるな。

 僕はぷつりと赤く膨らんだほっぺたを掻いた。
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