12 / 30
四月十二日
しおりを挟むその悲劇は唐突に来た。
雲雀がリロイリロイかしましく囀りながら、お天道様に届くほど高く飛んでいく夢。
眩しくないのかしらと雲雀の目にサングラスを描いてやろうと思ったら、いきなりジャマジャマと突かれた。
あたしは空から真っ逆さまに落ちて……
ハッとして目が醒める。
そうだ。昨夜、布の重みで伸びてしまったワンピースの裾上げをしたあと、アラームをセットしないまま眠ってしまったんだった。
ということは、今何時?
明かりも点けずに、寝そべったまま枕元の小机に手だけを伸ばす。
「へ…………?」
何が起きたのかわからなかった。
ただあたしの左側の髪が突然びしょ濡れになったこと、それと……
あなたが、「ぅわ」って叫んで飛び起きたことが同時だった。
そう、iPhoneの時刻を見ようと伸ばしたあたしの手は、暗がりの中で小机の上のマグカップを引っ掛けてしまったのだった。
悲しくも中身の冷め切ったそれは、あたしの頭上をやや外して落下したのだった。
あたしの髪はコーヒーまみれ
ごろりと横たわるマグカップ
互い違い、逆さまに寝ているあなたの足もコーヒーの飛沫被害……
怒ってるわよね
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい
いや、謝る前に布団の心配だ
インスタントコーヒー色に色付く液体を受け止めたのは、君の巨大枕
実に見事だった
こないだは風呂、今度は布団か……
怒る気にもならんわ
泣いても慰めんぞ
早く枕を片してシャワーして来い
髪がコーヒーのいい香りがする、だと?
落ち込んでるかと思えば、なんて呑気な女だ
かと思えば、お気に入りの巨大枕は苦い汁を吸い込んで、すでに救いようもなく
君は泣く泣く可燃ゴミ指定袋に入れる
「うっうっ……ごめんなさい、さようなら」
早朝五時から大騒ぎだ
午後七時、お仕事終わり!
クリニックの自動ドアを出ると、必ず見上げる夜空。
月の位置を確かめる。
駅への進行方向にくっきり三日月が綺麗だ。
あたしも目を三日月にして、それを愛でる。
夜なのに雲雀のかしましいけど澄んだ囀りなんて珍しい。
リロロイリロイリロイ
街が明るいから夜でも鳥は飛ぶんだな。
雲雀……明け方の夢とともに、早朝の不運なコーヒー事件を思い出す。
あなたが淹れた香ばしい珈琲と新しい枕を抱きかかえて、ベランダで三日月を愛でる。
珈琲が美味しい。
何のイベントか、海の方でたった五分間だけ花火が上がった。
珈琲を飲みながら紫煙を吐いて哲学をしてるふりして三日月を愛でるあなたは、
「君はついてるね」って言った。
? あたしのどこがついてるんだろう。貧乏くじ引きの不運女なのに……
「僕は珈琲の淹れ方がとびきり上手い」
30
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
里中曖琉の些細な日記とか(Jun.2024)
弘生
現代文学
小説「曖琉のなんでもない日常」の里中曖琉が書きたい時に気まぐれに書く、ただの独り言のリアルタイム日記です。
代筆者の弘生の投稿が遅いので、多少の日付の遅延があります。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる