9 / 30
四月九日
しおりを挟むS20号のキャンバスを張ることにした
段ボールのマット感が好きなんだけど、気分的に超荒目のキャンバスのざらざらした感触に描きたい気分なんだ
描くものなんて全く未知だけれど
特別なアトリエを持たないあたしは狭すぎる部屋で、雑多な我楽多を端っこに避けて床面積を確保する
重たすぎるロールキャンバスを広げるために、四肢を使って丸まりたがるそれと全力で格闘する
数分でHPが消耗する
キャンバスサイズにカットするための線を引く
こんなに厚くて硬くて丸まってる頑固なキャンバスは、ズレないようにきちんと線を引いた方がいいからね
目分量の張りしろを加えて、線の外側をカットする
ザクザクザクザク……いい音
あれ? なんか、なんか違う……
嘘でしょ! あたしってば線の……線の内側を意気揚々と切っていた!
これは泣きます!
がっくり全身の力が抜けて、
「うそぉ、なにやってるのぉ!」
って、あたし自身のおでこをグーで叩いた
そしたら鼻血がぶぅーって出た
ぼたぼたと白キャンに赤い血がドロップする
そしたらあなたが飛んできて
「うそぉ、なにやってるんだよ」
って、あたしの鼻にティッシュをぎうぎう詰め込んだ
時間のかかる止血に辟易しながら、
「なんでいつも普通に失敗するんだろ」って言ったら、
「なんでいつも普通に失敗するんだよ」って訊く
「真似しないでよ!」
「真似じゃないよ」
「あなた誰」
「僕は君」
じっと止血しながら、あなたの瞳に映るあたしを見る
鼻に白いティッシュを詰め込んでる無様なあたし
その奥のあたしも、またその奥のあたしも……
「この部屋に合わせ鏡は要らないよね」
ってあなたが言って、鏡を一台取り外した
「そんなに自分を覗いてると、一番奥の自分に夢喰われちゃうぞ」
ってさ
「さあ、キャンバスをカットし直そう」
「手伝ってくれるの……? ありがと」
「僕がここにいる時くらいはね。キャンバス張る時に、また指に血豆作りそうだしね」
「見て見て、四つん這いから落ちた血滴と、立ち上がってから落ちた血滴の大きさがあんなに違う」
「何がそんなに楽しいんだい」
「衝撃の差が楽しいのよ」
30
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
里中曖琉の些細な日記とか(Jun.2024)
弘生
現代文学
小説「曖琉のなんでもない日常」の里中曖琉が書きたい時に気まぐれに書く、ただの独り言のリアルタイム日記です。
代筆者の弘生の投稿が遅いので、多少の日付の遅延があります。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる