上 下
5 / 30

四月五日

しおりを挟む


「あっ!」
「あっ!…………」

 入浴剤で白濁したバスタブに、確かに消えゆくあたしのマグカップ
 
「今、落ちたよね? だから持ち込むなって」
「だって……」

 あたしは手探りでカップを探す
 音もなく底に沈んだカップからコーヒー色がうっすら立ち上る
 そっと持ち上げると、コーヒーのほとんどはまだカップに残り、白いお湯が表面張力で塞いでいる
 けれど、すでに飲むわけにはいかない

「だって……今日は特別、うん、特別にコーヒー風呂にしてみました」
くならもっと上手いウソを言え」
「ウソじゃないよ、昼間の過呼吸で崩れた平常心と重心を取り戻すんだもん、ほら」

 あたしはマグカップを逆さまにして、湯船に投入した

「なんて中途半端なことを……」
「リラックス効果があるよ、きっと」
「ないと思う」
「お砂糖は入ってないから大丈夫、ミルクは美白効果……」
「そう言う問題じゃないね」

 呆れた顔であなたがお湯をかき混ぜると、一部うっすらコーヒー色に濁っていたお湯は元の白濁したお湯に何事もなかったように混ざってしまった

「ほら、不安なことはこうして忘れちゃえ」

 あたしはどこに行ったのかわからない、コーヒー色の所在を探す
 白濁の中に霧散した僅かなコーヒーは、あなたの中のあたしであるような気がした……んだ
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

里中曖琉の些細な日記とか(Jun.2024)

弘生
現代文学
小説「曖琉のなんでもない日常」の里中曖琉が書きたい時に気まぐれに書く、ただの独り言のリアルタイム日記です。 代筆者の弘生の投稿が遅いので、多少の日付の遅延があります。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

3分で読める短編集【幸福な贈り物】

水夏
現代文学
最後の1行まで何が起こるか分からない。オチが痛快な短編集!

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

処理中です...