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第四章 水平線

怪物 〜曖流のなんでもない日常 二十三

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 蒼が本屋を辞めた一月。
 最後にふたりでくねくね踊った三角公園で、コンビニおでんの大根を必死に半分に割る曖流の隣、蒼が言った。
「ねえ曖流、教えっこしようよ」
「なんの?」
 既に曖流は意固地エリアに半身突入しているので、以前のように乗り切れない。
「あのさ、前に教えっこした時、お互いを含んだ秘密だったじゃない。その正体さ」
 ……
 あれは本当に誰にも言わないと決めた、たとえ蒼にも言えない秘密……事実だった。
「ばかね、言えるわけないわ」
「そっか。ぼくは曖流だけには伝えるべきかなって思ったんだけど、曖流が嫌ならいいんだ。残念だけど我慢する」
「そう……そうしてもらえると助かるわ。蒼の憎しみの正体は訊いてあげる」
「いや、これはぼくたちのの暗黙のルールだ。ぼくだけが話すのは教えっことは言えない」
 そう言って、蒼は出会った三年前と変わらない愛らしい笑顔を見せた。
 あの時、両足の間に鎮座している野良猫を、いつものように抱き上げようとして、するりと逃げられてしまったことを曖流は思い出していた。
「あの時、蒼は何を伝えたかったのかしら……蒼の清い中の憎しみの正体……知っておきたかった」

 桜が散る頃には、曖流は九月の個展に向け、いよいよ本格的に絵画制作を開始していた。
 自分の居場所。居心地の良い場所。居たい場所。居ても良い場所。自分を必要としてくれる場所。そう、どんなに孤独に憧れても孤独になんてなれないし、なりたくないのだから。
産土うぶすな
 曖流はここ数年追い続けているテーマを、さらに三千世界の高みに昇り、宇宙の中の地球という生命体そのものをつぶさに表現したいと、手のひらで感触を確かめながら描き始めていた。
 オペ用グローブを両手に装着し、溢れる水分のイメージを、透明が突き抜ける宇宙のイメージを、両手が溶けてゆきそうな感触でキャンバスに塗り込める。
 その気持ち良さに酔い痴れる曖流に、実梨果から連絡が入った。
「溝巻氏のことで話があるわ」
 四月の終わり頃だった。

「曖流、悪いけど今日は冗談抜きの真面目な話よ」
 いつになく実梨果の険しい顔。
「へいへい、実梨果お姉さま、仰せの通りに」
「それがふざけてるのよ。それより、そのほっぺの青い絵具、落としてきた方がいいわよ」
「……こわい」


 知る力と見抜く力を身につけよ

















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