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第一章 血豆色の玉
怪物 〜曖流のなんでもない日常 一
しおりを挟むトーストに載せた林檎ジャムが、ぼたりと膝に落ちた。
それをじっと見つめたあとで、無言のまま曖流は膝を立て、それを舌で掬いとった。
それでなくとも不機嫌な日々が続いているし、暑いしで、のろのろと朝食を終えてからベランダに出る。
今日もターコイズの空に、自由な雲たちが自由なフォルムで無秩序に散乱している。
朝とはいえ太陽の照射は容赦ないが、曖流はぺらぺらのキャミソール姿でそれに挑み、キリがないとわかっていても、写真を撮らずにはいられない。ほぼ毎日容量は増えていくわけで、現在クラウド上の空の写真だけで増設した容量の二分の一を占めている。少しは整理しないといけない。
曖流は果てなく広がる天を仰いで、創作の種を際限なく語っていた幻の時間を思う。空の形をいつでもうきうきして躊躇うことなくその場で共有していた誰かがいたはず。わかってるのに思い出せない。
だから、こんな面白い空が撮れた時は、むしろ悲しくなるし、頭痛がするし、もったいないし、なおさら不機嫌にもなる。
首筋に流れる汗が、虫が這うように気味悪くくすぐったい。
いつかその虫は、肩鎖あたりからしゅるしゅると入り込んで、曖流の腕の血管の中で血小板を食べて生息するのかもしれない。
シャワーを終えたら、曖流は噛み締める奥歯の力を抜いて、絵描きスイッチをカチッと入れるのだ。
神の御心のままに
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