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20 誤解
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イザイル第二皇子は、見た目の美しさに加えて誠実で、勤勉で、公平で、温厚で、平民からも大変人気があった。彼に関してはゴシップネタを一度も聞いたことがなかった。
「イザイル殿下が浮気……?」
「違う! 違うんだ……いや、違わないけど違うんだ!!!」
「どっちですか!!?」
レミリアが思わずツッコみを入れてしまう。
「書面上の浮気というか……」
「はあ? 全然意味がわからないのですが」
冷たく言い放つレミリアを見て、イザイルは彼女がこの帝国にやって来たいきさつを思い出した。言い訳が必要な人物がもう一人増えたということだ。
「……ヤキモチを焼いてほしくて」
「は?」
空中で腕を組んでイザイルを睨みつけているルヴィアを上目遣いで見ながら、冷たい目線を向ける彼女の両親やレミリアに理由を説明し始めた。
「ルヴィアはとても人気があるんだ……美人で明るいし聡明だ……その……私は帝位を継ぐことはないし、穏やかだと言われているせいか軽く見られることも多くて……ルヴィアに手を出そうとする者達がいてもどうにもできなくて……」
『いつも私が一掃していたではありませんか!』
言い訳がましいイザイルにイラついたのか、ぽつりぽつりと話す彼の言葉に被せた。
「それでも不安だったんだ!」
今では鼻水まで流しながら訴えるイザイルを見て、レミリアもルヴィアの両親も呆れ顔になっていた。
「だから、その気持ちをわかってもらいたくて……ある男爵令嬢に協力してもらって私の恋人のように振る舞ってもらったんだ……ちゃんと契約を書面として残している……本当にフリだけだったんだ……」
本人も自分が悪いという自覚があるからか、すぐに勢いはなくなり、萎れていく。
(書面にまでしちゃうあたりが真面目なイザイル殿下らしいけど……アホかな?)
『ねえレミリア様、しょうもないと思いません?』
「しょうもないですね~」
「うう……自覚はしている……」
要は婚約者の心を試したかったらしい。
「人の心を試すのは感心できません……というか、もっとやり方あったでしょ」
思わず言葉使いを間違ってしまう。
「レミリア様のおっしゃる通りです!」
ここでルヴィアの母親が出てきた。
「でもそんなこと、ルヴィアは病の最中少しも言わなかった……殿下にまた会えるのを楽しみにして……」
『まあお母様! まだその話はしてはいけませんわ! 殿下をもう少し懲らしめないと!』
涙ぐむ母親を笑わせようとしたのか、ルヴィアが大袈裟に声をかける。
「本当かルヴィア! 私も会いたかった! 毎日毎日君の部屋が見える庭まで忍び込んでいたんだ!」
「あの不審者は殿下だったのですか!?」
今度はルヴィアの父親だ。彼の話では、一時期屋敷の庭で不審者が度々目撃されていたらしい。物がなくなるわけでもなく、ただ使用人に紛れ込むように庭をうろついていたらしいが、一向に捕まらず警備を強化する羽目になっていたとか。
「す、すまない……! 病に罹っている者がいる屋敷にすら近づくことが許されなくて……誰にも言わずこっそり通っていたんだ」
(何だこの皇子!?)
レミリアが知っているのとは別人のようだ。しかしそれはたった数回、パーティで会った時の記憶と、周りの噂から出来上がっていた人物像にすぎない。
『ビックリされたでしょう? これがイザイル殿下なのです』
ルヴィアは呆れたように言っているが、表情はとても愛おしそうなものを見る目に変わっていた。
『まぁ私は殿下のちょっと愚かな所も愛おしいと思っていたのですが』
「ルヴィア! 私も愛してる!!!」
イザイルの表情がパッと明るくなった。
『だけどそれとこれとは話は別です』
「うわーん! 許してくれルヴィア~~!」
先程から表情のアップダウンが激しい。それをルヴィアは楽しんでいるようだ。
『ふふ。最期に殿下の笑い顔も泣き顔もしっかり魂の記憶に残したいんですもの』
天使のような微笑みだった。彼女はすでに死を受け入れている。
『イザイル殿下、許して欲しかったら残りの殿下の人生、しっかりこなしてくださいませ! そのような身体になって、一体何が出来るというのですか!』
彼女の指摘通り、イザイルの身体は病的に痩せていた。
『もう何があってもお側で励ますことは出来ません。これからはご自分でご自分を奮い立たせるのですよ!』
「……わかった」
返事を聞いてルヴィアは安心したようにニコリと笑う。
『許してあげるかどうかは、殿下が私と同じ立場になった時にわかりますので、気を抜かないように』
「……わかった!」
そして今度は自身の両親の方に向き直る。
『お父様お母様、産んでいただいてありがとうございました。おかげでとても幸せな人生を送れましたわ。殿下との婚約なんて、1番のプレゼントです。私は先にこの世を離れましたがどうかお2人はゆっくりこちらにお越しください」
レミリアとアレンにもしっかり頭を下げた。
『思いがけず愛する人達との時間をいただき感謝いたします。どうかお2人も悔いのない人生をお送りください』
そしてルヴィアの体が光りを纏い始める。
『時間ですわね』
「ルヴィア!!!」
『殿下、またお会いしましょうね』
優しい微笑みのまま、ルヴィアは再びこの世を去った。
「イザイル殿下が浮気……?」
「違う! 違うんだ……いや、違わないけど違うんだ!!!」
「どっちですか!!?」
レミリアが思わずツッコみを入れてしまう。
「書面上の浮気というか……」
「はあ? 全然意味がわからないのですが」
冷たく言い放つレミリアを見て、イザイルは彼女がこの帝国にやって来たいきさつを思い出した。言い訳が必要な人物がもう一人増えたということだ。
「……ヤキモチを焼いてほしくて」
「は?」
空中で腕を組んでイザイルを睨みつけているルヴィアを上目遣いで見ながら、冷たい目線を向ける彼女の両親やレミリアに理由を説明し始めた。
「ルヴィアはとても人気があるんだ……美人で明るいし聡明だ……その……私は帝位を継ぐことはないし、穏やかだと言われているせいか軽く見られることも多くて……ルヴィアに手を出そうとする者達がいてもどうにもできなくて……」
『いつも私が一掃していたではありませんか!』
言い訳がましいイザイルにイラついたのか、ぽつりぽつりと話す彼の言葉に被せた。
「それでも不安だったんだ!」
今では鼻水まで流しながら訴えるイザイルを見て、レミリアもルヴィアの両親も呆れ顔になっていた。
「だから、その気持ちをわかってもらいたくて……ある男爵令嬢に協力してもらって私の恋人のように振る舞ってもらったんだ……ちゃんと契約を書面として残している……本当にフリだけだったんだ……」
本人も自分が悪いという自覚があるからか、すぐに勢いはなくなり、萎れていく。
(書面にまでしちゃうあたりが真面目なイザイル殿下らしいけど……アホかな?)
『ねえレミリア様、しょうもないと思いません?』
「しょうもないですね~」
「うう……自覚はしている……」
要は婚約者の心を試したかったらしい。
「人の心を試すのは感心できません……というか、もっとやり方あったでしょ」
思わず言葉使いを間違ってしまう。
「レミリア様のおっしゃる通りです!」
ここでルヴィアの母親が出てきた。
「でもそんなこと、ルヴィアは病の最中少しも言わなかった……殿下にまた会えるのを楽しみにして……」
『まあお母様! まだその話はしてはいけませんわ! 殿下をもう少し懲らしめないと!』
涙ぐむ母親を笑わせようとしたのか、ルヴィアが大袈裟に声をかける。
「本当かルヴィア! 私も会いたかった! 毎日毎日君の部屋が見える庭まで忍び込んでいたんだ!」
「あの不審者は殿下だったのですか!?」
今度はルヴィアの父親だ。彼の話では、一時期屋敷の庭で不審者が度々目撃されていたらしい。物がなくなるわけでもなく、ただ使用人に紛れ込むように庭をうろついていたらしいが、一向に捕まらず警備を強化する羽目になっていたとか。
「す、すまない……! 病に罹っている者がいる屋敷にすら近づくことが許されなくて……誰にも言わずこっそり通っていたんだ」
(何だこの皇子!?)
レミリアが知っているのとは別人のようだ。しかしそれはたった数回、パーティで会った時の記憶と、周りの噂から出来上がっていた人物像にすぎない。
『ビックリされたでしょう? これがイザイル殿下なのです』
ルヴィアは呆れたように言っているが、表情はとても愛おしそうなものを見る目に変わっていた。
『まぁ私は殿下のちょっと愚かな所も愛おしいと思っていたのですが』
「ルヴィア! 私も愛してる!!!」
イザイルの表情がパッと明るくなった。
『だけどそれとこれとは話は別です』
「うわーん! 許してくれルヴィア~~!」
先程から表情のアップダウンが激しい。それをルヴィアは楽しんでいるようだ。
『ふふ。最期に殿下の笑い顔も泣き顔もしっかり魂の記憶に残したいんですもの』
天使のような微笑みだった。彼女はすでに死を受け入れている。
『イザイル殿下、許して欲しかったら残りの殿下の人生、しっかりこなしてくださいませ! そのような身体になって、一体何が出来るというのですか!』
彼女の指摘通り、イザイルの身体は病的に痩せていた。
『もう何があってもお側で励ますことは出来ません。これからはご自分でご自分を奮い立たせるのですよ!』
「……わかった」
返事を聞いてルヴィアは安心したようにニコリと笑う。
『許してあげるかどうかは、殿下が私と同じ立場になった時にわかりますので、気を抜かないように』
「……わかった!」
そして今度は自身の両親の方に向き直る。
『お父様お母様、産んでいただいてありがとうございました。おかげでとても幸せな人生を送れましたわ。殿下との婚約なんて、1番のプレゼントです。私は先にこの世を離れましたがどうかお2人はゆっくりこちらにお越しください」
レミリアとアレンにもしっかり頭を下げた。
『思いがけず愛する人達との時間をいただき感謝いたします。どうかお2人も悔いのない人生をお送りください』
そしてルヴィアの体が光りを纏い始める。
『時間ですわね』
「ルヴィア!!!」
『殿下、またお会いしましょうね』
優しい微笑みのまま、ルヴィアは再びこの世を去った。
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