3 / 63
3 大賢者の元へ
しおりを挟む
今日はとても綺麗な満月の日だ。レミリアは跨っている竜の首をさすりながら話しかけた。竜の大きな背は意外と乗り心地がいい。
「リューク! お利口さんだ~!」
よーしよしよし。と、竜は嬉しそうに彼女の小さな手に擦り寄った。
竜の体には大きな荷物が括り付けられていたが、それはレミリアが前もって用意していたものだった。
「この光の方へ向かってくれる?」
彼女は胸元に光る大きく透明な宝石のついたネックレスを空にかざした。するとその宝石は星々の光を集め、東の方へ一筋の光の道を示した。
竜は返事をするように咆哮すると、スピードを上げて光お方向へと進んだ。
「ヒャッホーーイ! 自由だーーっ!!」
風を切りながら誰に聞かれるわけでもない言葉を大声で叫ぶ。
「もうアルベルトの子守りもしなくていいなんて! 妃教育も! 令嬢達とのお茶会も! 偉い人達の顔と名前と好みを覚えたり、チャリティー活動もなし! 公務だってもしろんしなくていいし、山のように積まれた書類に目を通して、内容を要約してアルベルトに教える必要もなーい!」
ちょうど今、国境である魔物の森の上空を飛んでいる。少し下で巨大な怪鳥が旋回していたが、竜の姿を見つけるやいなや森の中へ戻っていった。
レミリアが暮らしていたマリロイド王国は、この大きな魔物の森のおかげで他国から攻撃を受けることなく平和に暮らせていた。魔物の森の方は、聖女の力によって結界が張られることにより安全が保てていた。
「さて、そろそろベルーガ帝国かな?」
下を見下ろすと、ポツポツとまばらだが小さな建物の灯りが見えてきた。どうやら無事に国境は越えられたようだ。
「あんな感じで出てきたのに追手も出てこないなんてねぇ?」
「ヴォ!」
リュークが予想外に返事をしてくれたことに驚いて、思わず声を出してレミリアは笑った。
「あ~久しぶりに笑ったわ。ありがとリューク」
「ヴォ!」
自分が本当に久しぶりに心から笑ったことに気が付いて、予定通り婚約破棄されてよかったのだと改めて納得できた。
目の前に大きな街が見えてきた。あまり竜の姿を見せない方がいいと判断し、更に高度を上げる。
「さ、流石に寒いわね……」
急いで防御魔法を張って体を守る。そういえばパーティ用のドレスのままだ。この魔法はこれから弟子入りをお願いする予定の大賢者ジークボルトから教わったものだった。
「先生、どの辺にいるんだろう……」
そのまましばらく飛んでいると、また下に見える灯りがまばらになってきた。そしてゆっくり竜が下降しだす。
小さな湖の側に、一軒の大きな家が建っていた。宝石から放たれていた光は、最後にその家の扉を射した後、ゆっくりと消えていった。
「こ、ここよね!?」
深呼吸の後ゴクリと喉を鳴らし、レミリアは扉をノックしようとしたその途端、大きな扉が開いた。
「うおっ! 本当に来やがった!」
レミリアの方もビックリしていたが、相手もどうやら同じくらい驚いていたようだ。でもこの男性は大賢者ジークボルトではない。綺麗な銀髪に深いブルーの瞳を持っていた。年齢はレミリアとそう変わらないだろうか。背も高く筋肉質、かなりのイケメンである。
「あ、あ……夜分に恐れ入ります。私、レミリア・ディーヴァと申しまして……ジークボルト先生は御在宅でしょうか」
「わりぃわりぃ! そうだよな。冷えるし早く入れよ! 師匠もお待ちかねだ」
広い玄関ホールにヒールの音が響く、こんなに広いのに住人の数は多くなさそうだ。レミリアを案内してくれている男性はそのまま階段を上り、2階の奥の部屋へと向かっていく。廊下は灯りこそあるが暗い。
(だ、大丈夫よね!?)
レミリアは何の疑問も持たずそのままこの男性についていっていいか一瞬迷った。到着したことに安心して、あまりにも警戒心がなかったと反省した。
(いざという時はリュークを呼ぼう)
そんなことを考えていると、相手の足が止まり、急に振り返った。
「そうだ! 俺はアレン。アレン・グレイス。お前の兄弟子だ! よろしくな」
「よ、よろしくお願いします!」
なんとも人懐っこい笑顔だった。
(犬系男子ね)
そんな前世の単語が頭をよぎったが、その前に驚かないといけない所がある。
「え!? 私、まだ先生に弟子にしてほしいと伝えていないのですが……」
「師匠の能力じゃねえかな? 妹弟子がもうすぐ来るから迎えてやれって言われたんだよ」
大賢者ジークボルト、彼はあらゆる魔術を使いこなし、魔道具すら作り上げ、あらゆる知識に精通し、最強の賢者と呼ばれている。
アレンは突き当りの部屋のドアをノックすると、相手の返事を待たずに扉を開けた。
「師匠~! レミリアが来たぞ~!」
大きな椅子に座って何やら図面を書いている男性の背中が見えた。
「リューク! お利口さんだ~!」
よーしよしよし。と、竜は嬉しそうに彼女の小さな手に擦り寄った。
竜の体には大きな荷物が括り付けられていたが、それはレミリアが前もって用意していたものだった。
「この光の方へ向かってくれる?」
彼女は胸元に光る大きく透明な宝石のついたネックレスを空にかざした。するとその宝石は星々の光を集め、東の方へ一筋の光の道を示した。
竜は返事をするように咆哮すると、スピードを上げて光お方向へと進んだ。
「ヒャッホーーイ! 自由だーーっ!!」
風を切りながら誰に聞かれるわけでもない言葉を大声で叫ぶ。
「もうアルベルトの子守りもしなくていいなんて! 妃教育も! 令嬢達とのお茶会も! 偉い人達の顔と名前と好みを覚えたり、チャリティー活動もなし! 公務だってもしろんしなくていいし、山のように積まれた書類に目を通して、内容を要約してアルベルトに教える必要もなーい!」
ちょうど今、国境である魔物の森の上空を飛んでいる。少し下で巨大な怪鳥が旋回していたが、竜の姿を見つけるやいなや森の中へ戻っていった。
レミリアが暮らしていたマリロイド王国は、この大きな魔物の森のおかげで他国から攻撃を受けることなく平和に暮らせていた。魔物の森の方は、聖女の力によって結界が張られることにより安全が保てていた。
「さて、そろそろベルーガ帝国かな?」
下を見下ろすと、ポツポツとまばらだが小さな建物の灯りが見えてきた。どうやら無事に国境は越えられたようだ。
「あんな感じで出てきたのに追手も出てこないなんてねぇ?」
「ヴォ!」
リュークが予想外に返事をしてくれたことに驚いて、思わず声を出してレミリアは笑った。
「あ~久しぶりに笑ったわ。ありがとリューク」
「ヴォ!」
自分が本当に久しぶりに心から笑ったことに気が付いて、予定通り婚約破棄されてよかったのだと改めて納得できた。
目の前に大きな街が見えてきた。あまり竜の姿を見せない方がいいと判断し、更に高度を上げる。
「さ、流石に寒いわね……」
急いで防御魔法を張って体を守る。そういえばパーティ用のドレスのままだ。この魔法はこれから弟子入りをお願いする予定の大賢者ジークボルトから教わったものだった。
「先生、どの辺にいるんだろう……」
そのまましばらく飛んでいると、また下に見える灯りがまばらになってきた。そしてゆっくり竜が下降しだす。
小さな湖の側に、一軒の大きな家が建っていた。宝石から放たれていた光は、最後にその家の扉を射した後、ゆっくりと消えていった。
「こ、ここよね!?」
深呼吸の後ゴクリと喉を鳴らし、レミリアは扉をノックしようとしたその途端、大きな扉が開いた。
「うおっ! 本当に来やがった!」
レミリアの方もビックリしていたが、相手もどうやら同じくらい驚いていたようだ。でもこの男性は大賢者ジークボルトではない。綺麗な銀髪に深いブルーの瞳を持っていた。年齢はレミリアとそう変わらないだろうか。背も高く筋肉質、かなりのイケメンである。
「あ、あ……夜分に恐れ入ります。私、レミリア・ディーヴァと申しまして……ジークボルト先生は御在宅でしょうか」
「わりぃわりぃ! そうだよな。冷えるし早く入れよ! 師匠もお待ちかねだ」
広い玄関ホールにヒールの音が響く、こんなに広いのに住人の数は多くなさそうだ。レミリアを案内してくれている男性はそのまま階段を上り、2階の奥の部屋へと向かっていく。廊下は灯りこそあるが暗い。
(だ、大丈夫よね!?)
レミリアは何の疑問も持たずそのままこの男性についていっていいか一瞬迷った。到着したことに安心して、あまりにも警戒心がなかったと反省した。
(いざという時はリュークを呼ぼう)
そんなことを考えていると、相手の足が止まり、急に振り返った。
「そうだ! 俺はアレン。アレン・グレイス。お前の兄弟子だ! よろしくな」
「よ、よろしくお願いします!」
なんとも人懐っこい笑顔だった。
(犬系男子ね)
そんな前世の単語が頭をよぎったが、その前に驚かないといけない所がある。
「え!? 私、まだ先生に弟子にしてほしいと伝えていないのですが……」
「師匠の能力じゃねえかな? 妹弟子がもうすぐ来るから迎えてやれって言われたんだよ」
大賢者ジークボルト、彼はあらゆる魔術を使いこなし、魔道具すら作り上げ、あらゆる知識に精通し、最強の賢者と呼ばれている。
アレンは突き当りの部屋のドアをノックすると、相手の返事を待たずに扉を開けた。
「師匠~! レミリアが来たぞ~!」
大きな椅子に座って何やら図面を書いている男性の背中が見えた。
25
お気に入りに追加
1,511
あなたにおすすめの小説
悪魔だと呼ばれる強面騎士団長様に勢いで結婚を申し込んでしまった私の結婚生活
束原ミヤコ
恋愛
ラーチェル・クリスタニアは、男運がない。
初恋の幼馴染みは、もう一人の幼馴染みと結婚をしてしまい、傷心のまま婚約をした相手は、結婚間近に浮気が発覚して破談になってしまった。
ある日の舞踏会で、ラーチェルは幼馴染みのナターシャに小馬鹿にされて、酒を飲み、ふらついてぶつかった相手に、勢いで結婚を申し込んだ。
それは悪魔の騎士団長と呼ばれる、オルフェレウス・レノクスだった。
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
【完結】婚約者が竜騎士候補に混ざってる
五色ひわ
恋愛
今回の竜騎士選定試験は、竜人であるブルクハルトの相棒を選ぶために行われている。大切な番でもあるクリスティーナを惹かれるがままに竜騎士に選んで良いのだろうか?
ブルクハルトは何も知らないクリスティーナを前に、頭を抱えるしかなかった。
本編24話→ブルクハルト目線
番外編21話、番外編Ⅱ25話→クリスティーナ目線
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~
薄味メロン
恋愛
HOTランキング 1位 (2019.9.18)
お気に入り4000人突破しました。
次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。
だが、誰も知らなかった。
「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」
「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」
メアリが、追放の準備を整えていたことに。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
悪役令嬢は二度も断罪されたくない!~あのー、私に平穏な暮らしをさせてくれませんか?~
イトカワジンカイ
恋愛
(あれって…もしや断罪イベントだった?)
グランディアス王国の貴族令嬢で王子の婚約者だったアドリアーヌは、国外追放になり敵国に送られる馬車の中で不意に前世の記憶を思い出した。
「あー、小説とかでよく似たパターンがあったような」
そう、これは前世でプレイした乙女ゲームの世界。だが、元社畜だった社畜パワーを活かしアドリアーヌは逆にこの世界を満喫することを決意する。
(これで憧れのスローライフが楽しめる。ターシャ・デューダのような自給自足ののんびり生活をするぞ!)
と公爵令嬢という貴族社会から離れた”平穏な暮らし”を夢見ながら敵国での生活をはじめるのだが、そこはアドリアーヌが断罪されたゲームの続編の世界だった。
続編の世界でも断罪されることを思い出したアドリアーヌだったが、悲しいかな攻略対象たちと必然のように関わることになってしまう。
さぁ…アドリアーヌは2度目の断罪イベントを受けることなく、平穏な暮らしを取り戻すことができるのか!?
「あのー、私に平穏な暮らしをさせてくれませんか?」
※ファンタジーなので細かいご都合設定は多めに見てください(´・ω・`)
※小説家になろう、ノベルバにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる