14 / 16
14 処刑台
しおりを挟む
ミケーラがレティシアの中に入ってそろそろ半年。王都では様々な変化が起こっていた。
偽聖女パミラに手を貸し、レティシアをギロチン台に送った者全てが処刑されることに決まった。
聖女パミラの悪事が暴露されたのだ。
「悪魔が聖女の名を語り我々を騙していたのだ! 予言の厄災全て、この偽聖女パミラが招いたものだ!!!」
大神官は信徒達に向け大々的に公表した。人々は半信半疑だったが、今の大神官メドルバは公平な人間で、権力に屈するような人物でないことは知っていたし、何よりパミラの予言はいつも被害を免れないタイミングで告げられていた為、何か裏があるのでは? と考える人は少なくなかった。
「いっつも遅いんだよなぁ~あの予言」
「そうそう。予言があってもなくても同じっていうか……」
「意味ないのよ。あと少し早く予言してくれてたらうちの人は助かったかもしれないのに……!」
それにここ最近、王都の高級店で傍若無人に振る舞う姿や、派手なドレスで観劇するパミラを多くの者が目撃していた。そして凡そ聖女の行動とは思えない噂が飛び交っていたのだ。
「王太子ライルはその立場にありながら悪魔に騙され手を貸した。よって廃嫡し、レオンハルトを次期王として迎え入れる! これは教会も認めたものである!!!」
元王太子ライルは違法娼館通いの罰を終え、すでにあの牢から出ていた。その後は王の最後の願いをミケーラが聞き入れ、刑の執行までは自室に幽閉されていた。だがすでにかつての美しく勇ましい彼の容姿は失われている。髪の毛は抜け落ち、何も食べられなくなっており、皮膚に潤いもなかった。そしていつも何かぶつぶつとしゃべり続けている。
王宮で暮らしていたライルの母である王妃は、その頃には息子同様、心が壊れてしまっていた。
「誰だ!!! 私の食事に泥水を入れたのは!!?」
「そのようなもの入ってはおりません!」
王宮内の廊下でレティシアを見かけてからというもの、王妃は何を食べても泥水の味しかしなくなっていた。
結局彼女も無実の公爵令嬢を陥れた罪と心身喪失で王から離縁され、故郷で幽閉されることになった。
「パミラ!!? パミラはどこへ行った!?!?」
彼女だけはパミラが偽聖女と伝えても信じなかった。最後までパミラの名前を呼び続けたのだった。
パミラに与した神官達は皆絶望と後悔の中残された日々を風も光も与えられない部屋で過ごしていた。刑が執行される前に自らの悪行を顧み、旅立った者も多かった。
王宮内での重要な役職から外された者も多くおり、不満を持つ者がいないわけではなかったが、あの穏やかな王が強硬な姿勢を崩さないことに恐怖を覚え、素直に受けいれていた。王は決してレティシアを嵌めた者達を許さなかった。
(何故死んでしまった令嬢にそこまで?)
誰もがそう思っていた。
人々は王や教会の大きな変化に戸惑っていた。そして同時に確信していた。
『なにか起こったのだ』
あの仲の悪かったこの国の最高権力者2人が協力してまで、あの『偽聖女』を排除しようとしている。だからこそ逆にパミラは『本物』なのだと信じた。『聖女』か『悪魔』か誰にもわからなかったが。
そしてその答えは、偽聖女として糾弾されたパミラの処刑日にわかった。
多くの者が処刑されるその日は、レティシアが処刑された日と同様に大雨が降ってた。そしてあの日と同じように、『聖女』を信じる者とそうでない者に別れた怒号が響き渡っていた。
あの日と違うのは、ギロチンを前に1人、誇り高く背筋を伸ばし、少しの恐怖も見せなかったレティシアと、ギロチンの列から少しでも遠くにあろうと恐怖に震える体で許しを請う者達だった。
「どうか! どうかお許しください!!! なんでもしますから!!! どうか!!!」
涙が雨かわからないもので、彼らの顔は濡れていた。
「私は聖女よ! 誰か! 誰か早くどうにかしなさい! 誰かぁぁぁぁ!!!」
パミラは拘束された後もずっと同じように主張し続けていた。彼女の声は絶叫に耐えかね、すっかりかすれてしまっている。
「レティシアがくるまたレティシアがくるレティシアがくるまたレティシアがくる」
元王太子ライルだけは抵抗することなく、相変わらずぶつぶつと呟いていた。
いよいよ処刑が始まろうとした時、人々の耳に直接、美しい鳥の声が響いた。高く優しい声色のそれは、人々の昂る気持ちを落ち着かせていった。
上を見上げると、その声の主であろう瞳と嘴と長い尾が金色に輝く真っ白の鳥が大空を待っていた。そうしてあれだけの大雨がピタリと止み、雲間から美しい光が差し込み始めた。
人々は静まり返った。そして再び処刑台の方を見た時、全員が息をのんだ。
公爵令嬢レティシアがそこに立っていたのだ。そうして観衆へ向けて丁寧にお辞儀をした。
偽聖女パミラに手を貸し、レティシアをギロチン台に送った者全てが処刑されることに決まった。
聖女パミラの悪事が暴露されたのだ。
「悪魔が聖女の名を語り我々を騙していたのだ! 予言の厄災全て、この偽聖女パミラが招いたものだ!!!」
大神官は信徒達に向け大々的に公表した。人々は半信半疑だったが、今の大神官メドルバは公平な人間で、権力に屈するような人物でないことは知っていたし、何よりパミラの予言はいつも被害を免れないタイミングで告げられていた為、何か裏があるのでは? と考える人は少なくなかった。
「いっつも遅いんだよなぁ~あの予言」
「そうそう。予言があってもなくても同じっていうか……」
「意味ないのよ。あと少し早く予言してくれてたらうちの人は助かったかもしれないのに……!」
それにここ最近、王都の高級店で傍若無人に振る舞う姿や、派手なドレスで観劇するパミラを多くの者が目撃していた。そして凡そ聖女の行動とは思えない噂が飛び交っていたのだ。
「王太子ライルはその立場にありながら悪魔に騙され手を貸した。よって廃嫡し、レオンハルトを次期王として迎え入れる! これは教会も認めたものである!!!」
元王太子ライルは違法娼館通いの罰を終え、すでにあの牢から出ていた。その後は王の最後の願いをミケーラが聞き入れ、刑の執行までは自室に幽閉されていた。だがすでにかつての美しく勇ましい彼の容姿は失われている。髪の毛は抜け落ち、何も食べられなくなっており、皮膚に潤いもなかった。そしていつも何かぶつぶつとしゃべり続けている。
王宮で暮らしていたライルの母である王妃は、その頃には息子同様、心が壊れてしまっていた。
「誰だ!!! 私の食事に泥水を入れたのは!!?」
「そのようなもの入ってはおりません!」
王宮内の廊下でレティシアを見かけてからというもの、王妃は何を食べても泥水の味しかしなくなっていた。
結局彼女も無実の公爵令嬢を陥れた罪と心身喪失で王から離縁され、故郷で幽閉されることになった。
「パミラ!!? パミラはどこへ行った!?!?」
彼女だけはパミラが偽聖女と伝えても信じなかった。最後までパミラの名前を呼び続けたのだった。
パミラに与した神官達は皆絶望と後悔の中残された日々を風も光も与えられない部屋で過ごしていた。刑が執行される前に自らの悪行を顧み、旅立った者も多かった。
王宮内での重要な役職から外された者も多くおり、不満を持つ者がいないわけではなかったが、あの穏やかな王が強硬な姿勢を崩さないことに恐怖を覚え、素直に受けいれていた。王は決してレティシアを嵌めた者達を許さなかった。
(何故死んでしまった令嬢にそこまで?)
誰もがそう思っていた。
人々は王や教会の大きな変化に戸惑っていた。そして同時に確信していた。
『なにか起こったのだ』
あの仲の悪かったこの国の最高権力者2人が協力してまで、あの『偽聖女』を排除しようとしている。だからこそ逆にパミラは『本物』なのだと信じた。『聖女』か『悪魔』か誰にもわからなかったが。
そしてその答えは、偽聖女として糾弾されたパミラの処刑日にわかった。
多くの者が処刑されるその日は、レティシアが処刑された日と同様に大雨が降ってた。そしてあの日と同じように、『聖女』を信じる者とそうでない者に別れた怒号が響き渡っていた。
あの日と違うのは、ギロチンを前に1人、誇り高く背筋を伸ばし、少しの恐怖も見せなかったレティシアと、ギロチンの列から少しでも遠くにあろうと恐怖に震える体で許しを請う者達だった。
「どうか! どうかお許しください!!! なんでもしますから!!! どうか!!!」
涙が雨かわからないもので、彼らの顔は濡れていた。
「私は聖女よ! 誰か! 誰か早くどうにかしなさい! 誰かぁぁぁぁ!!!」
パミラは拘束された後もずっと同じように主張し続けていた。彼女の声は絶叫に耐えかね、すっかりかすれてしまっている。
「レティシアがくるまたレティシアがくるレティシアがくるまたレティシアがくる」
元王太子ライルだけは抵抗することなく、相変わらずぶつぶつと呟いていた。
いよいよ処刑が始まろうとした時、人々の耳に直接、美しい鳥の声が響いた。高く優しい声色のそれは、人々の昂る気持ちを落ち着かせていった。
上を見上げると、その声の主であろう瞳と嘴と長い尾が金色に輝く真っ白の鳥が大空を待っていた。そうしてあれだけの大雨がピタリと止み、雲間から美しい光が差し込み始めた。
人々は静まり返った。そして再び処刑台の方を見た時、全員が息をのんだ。
公爵令嬢レティシアがそこに立っていたのだ。そうして観衆へ向けて丁寧にお辞儀をした。
44
お気に入りに追加
664
あなたにおすすめの小説
88回の前世で婚約破棄され続けて男性不信になった令嬢〜今世は絶対に婚約しないと誓ったが、なぜか周囲から溺愛されてしまう
冬月光輝
恋愛
ハウルメルク公爵家の令嬢、クリスティーナには88回分の人生の記憶がある。
前世の88回は全てが男に婚約破棄され、近しい人間に婚約者を掠め取られ、悲惨な最期を遂げていた。
彼女は88回の人生は全て自分磨きに費やしていた。美容から、勉学に運動、果てには剣術や魔術までを最高レベルにまで極めたりした。
それは全て無駄に終わり、クリスは悟った。
“男は必ず裏切る”それなら、いっそ絶対に婚約しないほうが幸せだと。
89回目の人生を婚約しないように努力した彼女は、前世の88回分の経験値が覚醒し、無駄にハイスペックになっていたおかげで、今更モテ期が到来して、周囲から溺愛されるのであった。しかし、男に懲りたクリスはただひたすら迷惑な顔をしていた。
【完結】慰謝料は国家予算の半分!?真実の愛に目覚めたという殿下と婚約破棄しました〜国が危ないので返して欲しい?全額使ったので、今更遅いです
冬月光輝
恋愛
生まれつき高い魔力を持って生まれたアルゼオン侯爵家の令嬢アレインは、厳しい教育を受けてエデルタ皇国の聖女になり皇太子の婚約者となる。
しかし、皇太子は絶世の美女と名高い後輩聖女のエミールに夢中になりアレインに婚約破棄を求めた。
アレインは断固拒否するも、皇太子は「真実の愛に目覚めた。エミールが居れば何もいらない」と口にして、その証拠に国家予算の半分を慰謝料として渡すと宣言する。
後輩聖女のエミールは「気まずくなるからアレインと同じ仕事はしたくない」と皇太子に懇願したらしく、聖女を辞める退職金も含めているのだそうだ。
婚約破棄を承諾したアレインは大量の金塊や現金を規格外の収納魔法で一度に受け取った。
そして、実家に帰ってきた彼女は王族との縁談を金と引き換えに破棄したことを父親に責められて勘当されてしまう。
仕事を失って、実家を追放された彼女は国外に出ることを余儀なくされた彼女は法外な財力で借金に苦しむ獣人族の土地を買い上げて、スローライフをスタートさせた。
エデルタ皇国はいきなり国庫の蓄えが激減し、近年魔物が増えているにも関わらず強力な聖女も居なくなり、急速に衰退していく。
【完結】婚約破棄された聖女はもう祈れない 〜妹こそ聖女に相応しいと追放された私は隣国の王太子に拾われる
冬月光輝
恋愛
聖女リルア・サウシールは聖地を領地として代々守っている公爵家の嫡男ミゲルと婚約していた。
リルアは教会で神具を用いて祈りを捧げ結界を張っていたのだが、ある日神具がミゲルによって破壊されてしまう。
ミゲルに策謀に嵌り神具を破壊した罪をなすりつけられたリルアは婚約破棄され、隣国の山中に追放処分を受けた。
ミゲルはずっとリルアの妹であるマリアを愛しており、思惑通りマリアが新たな聖女となったが……、結界は破壊されたままで獰猛になった魔物たちは遠慮なく聖地を荒らすようになってしまった。
一方、祈ることが出来なくなった聖女リルアは結界の維持に使っていた魔力の負担が無くなり、規格外の魔力を有するようになる。
「リルア殿には神子クラスの魔力がある。ぜひ、我が国の宮廷魔道士として腕を振るってくれないか」
偶然、彼女の力を目の当たりにした隣国の王太子サイラスはリルアを自らの国の王宮に招き、彼女は新たな人生を歩むことになった。
その婚約破棄本当に大丈夫ですか?後で頼ってこられても知りませんよ~~~第三者から見たとある国では~~~
りりん
恋愛
近年いくつかの国で王族を含む高位貴族達による婚約破棄劇が横行していた。後にその国々は廃れ衰退していったが、婚約破棄劇は止まらない。これはとある国の現状を、第三者達からの目線で目撃された物語
貴族のとりすました顔ばかり見ていたから素直でまっすぐでかわいいところにグッときたという
F.conoe
恋愛
学園のパーティの最中に、婚約者である王子が大きな声で私を呼びました。
ああ、ついに、あなたはおっしゃるのですね。
婚約破棄をしてくれた王太子殿下、ありがとうございました
hikari
恋愛
オイフィア王国の王太子グラニオン4世に婚約破棄された公爵令嬢アーデルヘイトは王国の聖女の任務も解かれる。
家に戻るも、父であり、オルウェン公爵家当主のカリオンに勘当され家から追い出される。行き場の無い中、豪商に助けられ、聖女として平民の生活を送る。
ざまぁ要素あり。
婚約破棄は計画的に。
秋月一花
恋愛
「アイリーン、貴様との婚約を――」
「破棄するのですね、かしこまりました。喜んで同意致します」
私、アイリーンは転生者だ。愛読していた恋愛小説の悪役令嬢として転生した。とはいえ、悪役令嬢らしい活躍はしていない。していないけど、原作の強制力か、パーティー会場で婚約破棄を宣言されそうになった。
……正直こっちから願い下げだから、婚約破棄、喜んで同意致します!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる