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第2章 屋台販売
第3話 魔法使いの末裔
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「アイタッ!」
本日の一品、串焼き調理中。蒼は力加減を間違えてチクリと串の先で指を刺してしまった。この串は『ラニズの木』の枝からできており、竹串のようだが火に強くしかも安価で手に入る。この街の串焼き屋は皆これを使っていた。
ほんの少しだけ血が出てくる。が、すぐに止まり、水で流すと傷跡もみえなかった。
(これは……治ったってこと?)
しかしわざわざ怪我をして、リルケルラからの加護を再度確かめる気にはならない。
(痛いのヤダしね~)
怪我がすぐに治るという加護とは別に、病気にならない、どんな環境でも健康体でいられるという話だったが、これは確かめようがなかった。
「おっと急がなきゃ」
蒼の串焼きは、串に唐揚げ、腸詰め、肉団子が刺されている。一種類だけでは売るほど作れなかったので、この三種の串を出したところお得感があったのか大人気となった。
◇◇◇
「はぁ~~~今日もよく売れた!」
本日の甘いもの、ナッツ入りのクッキーの最後の一枚は神官長が満面の笑みで買って行った。後片付け中にすでに五名ほど駆け足でやってきたが売り切れなのがわかり、
「一足遅かったかー!」
と悔しがっていたので、蒼が間食用に手元に置いていたお菓子をコッソリと渡す。今日はガレット。まだ試作品だ。最近は焼き菓子のバリエーションを増やしている。焼き菓子全般が目立たず売る商品として違和感がないので彼女としては気楽なのだ。
「これ、秘密ですよ……」
小声でそう言うと、相手はコクコクと小さく頷き最後だけ深く頭を下げ、なんとも嬉しそうな顔で帰っていく。そしてそういう人達は、翌日にいの一番に蒼の屋台にやってきた。
(アルフレドもそうだけど、義理堅い人が多い気がするな~この街特有? この世界特有?)
そういう機会がなかっただけで、元の世界も実はそうだったのかな? などともう確かめようもない余計な考えも浮かぶ。
さあ帰ろうと蒼がワゴンの取手を持った瞬間、最近よく聞く声が遠くから聞こえてきた。
「あぁ~やっぱり遅かったかぁ~!!!」
(げっ!)
声を聞いただけで彼女は口がへの字になっていた。
「残念でした~~~またお待ちしてまーす」
「えぇ~冷たい! アルフレドにだったら絶対そんなこと言わないじゃん!」
この男の名前はレイジー。肩まであるサラサラストレートな髪をハーフアップにし、小さく揺れるピアスをつけている。蒼はまだこの世界ではトリエスタの街の人間しか知らないが、簡単にいうとチャラい、という印象が強い。
「アルフレドはこの荷車の出資者だしね。そりゃ特別よ」
「いいなぁ~オレも特別にしてくれよ~~~」
「お断りしまーす」
常にこんな会話ばかりなので、蒼はついにまともに取り合わなくなっていた。
自称、勇者と共に魔王を浄化した魔法使いの末裔。だがレイジーはなかなかの女たらしで有名なので、『魔法使いの末裔』という称号も女を引っ掛けるために言っているだけでは? という噂が出回っていた。というのも、彼は魔王軍にしてやられたからだ。大怪我を負って戻ってきた姿を多くの人が見ている。『末裔』にしては強さが足りないと判断された。本人は少しもそんなこと気にしていない様子ではあるが。
(精鋭メンバーに選ばれたって話だし、弱いわけじゃないんだろうけど……肩書きがあるのもそれはそれで期待かけられて大変だな)
それに蒼からすると、
(て言うかこの人、しょうくんと一緒に魔王を浄化しに行かなくていいの?)
という疑問もあった。神官達も特になにも言っていない。彼らが翔をとても大切に扱っているのを知っている彼女からすると、噂が本当だからだろうかと思ってしまう。それとも、あくまで特別なのは勇者の末裔だけなのだろうか。
(けどなんだろう……なんとな~く変な感じがするんだよな……)
だがなかなか名前が出てこない感覚で、それがむず痒いのか……レイジーといると彼女は少しばかりソワソワしてしまう。
「明日また来てよ。レイジーの好きな惣菜パンだから」
「やったー! え? オレのため? オレのためにわざわざ?」
「違います~元から予定で決まってました~」
「嘘でもいいからウンって言ってよー!」
だが本当に明日が楽しみなのか、レイジーは蒼の代わりにワゴンの取手を鼻歌を歌いながら持ち、倉庫まで運び始める。肉を多く入れてくれ、味付けは濃ければ濃いほどいい……等々リクエストをしながら。
「あ。そうそう……前から聞きたかったんだけどさ」
「企業秘密でーす」
蒼は先回りして答える。美味しさの秘訣を尋ねてきたのはこれまでも何人もいた。
「屋台のことじゃないってばぁ~」
もぉ~と可愛子ぶった。そうしてふざけたノリのまま尋ねたのだ。
「アオイってなんの加護貰ってんの~?」
蒼の呼吸が一瞬止まった。
「え……ごめん……聞かない方がよかったヤツ……?」
レイジーはすぐに蒼の様子に気がつき慌て始める。
(今更気を使うな~~~!)
だが自分自身もあまりにも前準備が足りなかったと反省する。彼女は、自身の出自や食事にかんしての言い訳は色々考えていたが、まさか加護のことを聞かれる日がくるとは予想していなかった。
(どうしよう……)
急いで頭を働かせる。
神官達の話では、リルケルラは他の御使よりも多くの人に加護を与えていると言っていた。もちろん蒼や上級神官達ほど強力な加護ではないが。
(なんかノリで与えてそうよね)
一度しか会ったことがないのにそんな印象が強く残っている。あの管理官ならそんなことしそうだな、と。
だから加護持ちは珍しいといえども、特殊すぎることではない。慌てなくてもいいのだと自分に言い聞かせる。
「……まあ加護は貰ってるけど、なんでわかったの?」
平静を装いながら質問を返す。
「え!? 知らない? オレも加護持ち! 心眼の加護を授かっててさ~えぇ~皆知ってると思ってたのに~もっとオレに興味持ってよ~」
そんなことをペラペラと喋っていいものなのか。だがそれで蒼は違和感がなんだったのかに気づいた。
(あ~そうだ……なんか見透かされてる気がして落ち着かなかったんだ……)
何故だかわからないが、彼には秘密がバレている気がした。あの翡翠色の瞳には、自分がこの世界の人間と違う風に映っているのではないかと不安が湧いたのだ。だから落ち着かなかった。
心眼とはつまり隠されているものを見ることが出来るのだろうと蒼はあたりをつける。
「あ、そっか! アオイは魔王軍襲撃後にトリエスタに来たから……オレ、魔法使いの末裔なんだよ! 魔王軍に人間が混ざってるのを見破ったのもオレなんだな~!」
どうだすごいだろう! と、キメ顔をするが、蒼は至って普通だ。
「それはアルフレドから聞いたけど……レイジーは魔王軍討伐には行かないの?」
ちょうどよかったと、気になることを尋ねてみる。魔王軍の討伐隊が結成されたという噂は蒼の耳にまで届いていた。勇者の末裔の話はまだ聞かないが、人々はそこにかつての英雄の子孫達が集まって、世界のために戦うと信じている。
(思ってたよりずっと血筋を重要視してる世界なんだよな~)
その辺、全く血縁者のいない蒼は気楽なものだ。
「え? 行かないよ?」
あたり前じゃん~とレイジーは心の底から思っているであろう声色をしていた。だが首を傾げた蒼を見て、しかたないなぁ~とまた得意顔をして話し始める。
「魔法使いの末裔ってそこそこいるからさ~ほら、皆オレみたいに顔がよくてモテるんだよ~……って、そんな目で見ないでぇ!……まあだからフラフラ冒険者なんてやってない、生まれた時から訓練してる人間が加わるんじゃね?」
「あぁなるほど」
「ちょっと! そこは納得しないで!?」
結局、二人でケタケタと大笑いした。レイジーは蒼が加護について何も話さないとわかるとそれ以上深く聞いてくることはなかった。
(そういや勇者の末裔の子孫ってしょうくんだけなのかな……)
蒼はすでにこの世界の歴史を大まかにだが学んでいた。メインは魔王との戦いだが、かなりの大昔から勇者は活躍していたと聞いている。ということは、魔法使いの末裔達と同じくそこそこ数はいそうなものだ。
(あとで確認しよ)
荷車を置いておく設定の倉庫に着いた。
「ありがと! ちょっと待っててくれたらお弁当持ってくるよ」
あまりものの詰め合わせだけどね。と、念のため言っておく。
「マジ!? アルフレドが食ってるやつだろ!?」
レイジーは子供のように大袈裟に喜んでいた。
その声が聞こえたからか、それともこの倉庫を目指してやってきたのか、
「なになに? どうしたの?」
噂をすれば影とばかりに、アルフレドがヒョイと現れた。ここ数日、彼は商人からの護衛依頼を受け近隣の街まで同行していてトリエスタにはいなかった。
「あらおかえり! 予定より早かったんだね」
「戻りは身軽だったからね~……お腹も空いたし……」
「あはは! レイジーと待ってて~お弁当持ってくるから」
「……ありがと」
そのやり取りをレイジーは不思議なものを見る目で眺めていた。
◇◇◇
蒼が部屋に戻った後、レイジーはニヤニヤとしながらアルフレドのニコニコとしたご機嫌な顔を覗き込む。
「いつもみたいにさっさと別の街に移らないのはなんでだろ~と思ったけど、アオイが目的か~」
「ハァ!!?」
アルフレドは長期間同じ街に滞在することはこれまでなかったのだ。
同じく冒険者をしているレイジーはアルフレドとはこれまで何度も遭遇したが、これほど長期間同じ街で一緒に過ごすのは初めてだった。
明らかに動揺をしているアルフレドにレイジーは面白がって追い打ちをかけてみる。
「だっていつもなら護衛ついでに別の街に拠点移すじゃん。わざわざ戻ってきたりしないで」
「……そうだな。なんで戻ってきたんだろ……お腹すいてて……」
「え!? 無自覚!?」
まさかの反応に今度はレイジーが驚いた。アルフレドは本気で『なんでだろ?』 と考え込んでいるのだ。
「なんだよ~お前そういうキャラだったのかよ~」
レイジーの方はちょっとつまらなさそうにし始めていた。アルフレドはモテる。レイジーが狙っている女の子は誰も彼もアルフレドの名前を出すのだ。もしそんなアルフレドが蒼といい仲になれば、レイジーにとっては都合がいい。……その後女の子達に相手にされるかどうかは怪しいところだが、そんなことは本人は考えていない。
「いつも当たり障りのない人付き合いしかしねぇし……それがクールでカッコいい! っていう女の子いたけど……あーでもあの子きっと今度は意外性があって可愛い! っていうんだろ~な~」
そして途中で話がずれていることに気がつき、咳払いをして誤魔化していると、アルフレドは遠くを見ながら心底そう思っているであろう言葉を吐き出した。レイジーの話は聞こえていないようだ。
「アオイのごはん、なんであんなに美味しいんだろ……」
彼は蒼に質問するという習慣がないままだ。なんで? という単語を彼女の前で使わないようにしていた。
(アレ!? そういうのじゃなかった!?)
レイジーは思ったように反応が返ってこないアルフレドを持て余し始める。
(アオイじゃなくてアオイのご飯の方!?)
まさかそんな……と、思いつつも、わからんでもない、というのがレイジーの正直な感想だ。
「そりゃお前……恋のスパイスがかかってるから! って言いたいとこだけどよぉ~……アオイの飯はマジで美味い。それが理由だと言われたらオレは否定する術を持たない……」
そう納得したような顔で答えた。
本日の一品、串焼き調理中。蒼は力加減を間違えてチクリと串の先で指を刺してしまった。この串は『ラニズの木』の枝からできており、竹串のようだが火に強くしかも安価で手に入る。この街の串焼き屋は皆これを使っていた。
ほんの少しだけ血が出てくる。が、すぐに止まり、水で流すと傷跡もみえなかった。
(これは……治ったってこと?)
しかしわざわざ怪我をして、リルケルラからの加護を再度確かめる気にはならない。
(痛いのヤダしね~)
怪我がすぐに治るという加護とは別に、病気にならない、どんな環境でも健康体でいられるという話だったが、これは確かめようがなかった。
「おっと急がなきゃ」
蒼の串焼きは、串に唐揚げ、腸詰め、肉団子が刺されている。一種類だけでは売るほど作れなかったので、この三種の串を出したところお得感があったのか大人気となった。
◇◇◇
「はぁ~~~今日もよく売れた!」
本日の甘いもの、ナッツ入りのクッキーの最後の一枚は神官長が満面の笑みで買って行った。後片付け中にすでに五名ほど駆け足でやってきたが売り切れなのがわかり、
「一足遅かったかー!」
と悔しがっていたので、蒼が間食用に手元に置いていたお菓子をコッソリと渡す。今日はガレット。まだ試作品だ。最近は焼き菓子のバリエーションを増やしている。焼き菓子全般が目立たず売る商品として違和感がないので彼女としては気楽なのだ。
「これ、秘密ですよ……」
小声でそう言うと、相手はコクコクと小さく頷き最後だけ深く頭を下げ、なんとも嬉しそうな顔で帰っていく。そしてそういう人達は、翌日にいの一番に蒼の屋台にやってきた。
(アルフレドもそうだけど、義理堅い人が多い気がするな~この街特有? この世界特有?)
そういう機会がなかっただけで、元の世界も実はそうだったのかな? などともう確かめようもない余計な考えも浮かぶ。
さあ帰ろうと蒼がワゴンの取手を持った瞬間、最近よく聞く声が遠くから聞こえてきた。
「あぁ~やっぱり遅かったかぁ~!!!」
(げっ!)
声を聞いただけで彼女は口がへの字になっていた。
「残念でした~~~またお待ちしてまーす」
「えぇ~冷たい! アルフレドにだったら絶対そんなこと言わないじゃん!」
この男の名前はレイジー。肩まであるサラサラストレートな髪をハーフアップにし、小さく揺れるピアスをつけている。蒼はまだこの世界ではトリエスタの街の人間しか知らないが、簡単にいうとチャラい、という印象が強い。
「アルフレドはこの荷車の出資者だしね。そりゃ特別よ」
「いいなぁ~オレも特別にしてくれよ~~~」
「お断りしまーす」
常にこんな会話ばかりなので、蒼はついにまともに取り合わなくなっていた。
自称、勇者と共に魔王を浄化した魔法使いの末裔。だがレイジーはなかなかの女たらしで有名なので、『魔法使いの末裔』という称号も女を引っ掛けるために言っているだけでは? という噂が出回っていた。というのも、彼は魔王軍にしてやられたからだ。大怪我を負って戻ってきた姿を多くの人が見ている。『末裔』にしては強さが足りないと判断された。本人は少しもそんなこと気にしていない様子ではあるが。
(精鋭メンバーに選ばれたって話だし、弱いわけじゃないんだろうけど……肩書きがあるのもそれはそれで期待かけられて大変だな)
それに蒼からすると、
(て言うかこの人、しょうくんと一緒に魔王を浄化しに行かなくていいの?)
という疑問もあった。神官達も特になにも言っていない。彼らが翔をとても大切に扱っているのを知っている彼女からすると、噂が本当だからだろうかと思ってしまう。それとも、あくまで特別なのは勇者の末裔だけなのだろうか。
(けどなんだろう……なんとな~く変な感じがするんだよな……)
だがなかなか名前が出てこない感覚で、それがむず痒いのか……レイジーといると彼女は少しばかりソワソワしてしまう。
「明日また来てよ。レイジーの好きな惣菜パンだから」
「やったー! え? オレのため? オレのためにわざわざ?」
「違います~元から予定で決まってました~」
「嘘でもいいからウンって言ってよー!」
だが本当に明日が楽しみなのか、レイジーは蒼の代わりにワゴンの取手を鼻歌を歌いながら持ち、倉庫まで運び始める。肉を多く入れてくれ、味付けは濃ければ濃いほどいい……等々リクエストをしながら。
「あ。そうそう……前から聞きたかったんだけどさ」
「企業秘密でーす」
蒼は先回りして答える。美味しさの秘訣を尋ねてきたのはこれまでも何人もいた。
「屋台のことじゃないってばぁ~」
もぉ~と可愛子ぶった。そうしてふざけたノリのまま尋ねたのだ。
「アオイってなんの加護貰ってんの~?」
蒼の呼吸が一瞬止まった。
「え……ごめん……聞かない方がよかったヤツ……?」
レイジーはすぐに蒼の様子に気がつき慌て始める。
(今更気を使うな~~~!)
だが自分自身もあまりにも前準備が足りなかったと反省する。彼女は、自身の出自や食事にかんしての言い訳は色々考えていたが、まさか加護のことを聞かれる日がくるとは予想していなかった。
(どうしよう……)
急いで頭を働かせる。
神官達の話では、リルケルラは他の御使よりも多くの人に加護を与えていると言っていた。もちろん蒼や上級神官達ほど強力な加護ではないが。
(なんかノリで与えてそうよね)
一度しか会ったことがないのにそんな印象が強く残っている。あの管理官ならそんなことしそうだな、と。
だから加護持ちは珍しいといえども、特殊すぎることではない。慌てなくてもいいのだと自分に言い聞かせる。
「……まあ加護は貰ってるけど、なんでわかったの?」
平静を装いながら質問を返す。
「え!? 知らない? オレも加護持ち! 心眼の加護を授かっててさ~えぇ~皆知ってると思ってたのに~もっとオレに興味持ってよ~」
そんなことをペラペラと喋っていいものなのか。だがそれで蒼は違和感がなんだったのかに気づいた。
(あ~そうだ……なんか見透かされてる気がして落ち着かなかったんだ……)
何故だかわからないが、彼には秘密がバレている気がした。あの翡翠色の瞳には、自分がこの世界の人間と違う風に映っているのではないかと不安が湧いたのだ。だから落ち着かなかった。
心眼とはつまり隠されているものを見ることが出来るのだろうと蒼はあたりをつける。
「あ、そっか! アオイは魔王軍襲撃後にトリエスタに来たから……オレ、魔法使いの末裔なんだよ! 魔王軍に人間が混ざってるのを見破ったのもオレなんだな~!」
どうだすごいだろう! と、キメ顔をするが、蒼は至って普通だ。
「それはアルフレドから聞いたけど……レイジーは魔王軍討伐には行かないの?」
ちょうどよかったと、気になることを尋ねてみる。魔王軍の討伐隊が結成されたという噂は蒼の耳にまで届いていた。勇者の末裔の話はまだ聞かないが、人々はそこにかつての英雄の子孫達が集まって、世界のために戦うと信じている。
(思ってたよりずっと血筋を重要視してる世界なんだよな~)
その辺、全く血縁者のいない蒼は気楽なものだ。
「え? 行かないよ?」
あたり前じゃん~とレイジーは心の底から思っているであろう声色をしていた。だが首を傾げた蒼を見て、しかたないなぁ~とまた得意顔をして話し始める。
「魔法使いの末裔ってそこそこいるからさ~ほら、皆オレみたいに顔がよくてモテるんだよ~……って、そんな目で見ないでぇ!……まあだからフラフラ冒険者なんてやってない、生まれた時から訓練してる人間が加わるんじゃね?」
「あぁなるほど」
「ちょっと! そこは納得しないで!?」
結局、二人でケタケタと大笑いした。レイジーは蒼が加護について何も話さないとわかるとそれ以上深く聞いてくることはなかった。
(そういや勇者の末裔の子孫ってしょうくんだけなのかな……)
蒼はすでにこの世界の歴史を大まかにだが学んでいた。メインは魔王との戦いだが、かなりの大昔から勇者は活躍していたと聞いている。ということは、魔法使いの末裔達と同じくそこそこ数はいそうなものだ。
(あとで確認しよ)
荷車を置いておく設定の倉庫に着いた。
「ありがと! ちょっと待っててくれたらお弁当持ってくるよ」
あまりものの詰め合わせだけどね。と、念のため言っておく。
「マジ!? アルフレドが食ってるやつだろ!?」
レイジーは子供のように大袈裟に喜んでいた。
その声が聞こえたからか、それともこの倉庫を目指してやってきたのか、
「なになに? どうしたの?」
噂をすれば影とばかりに、アルフレドがヒョイと現れた。ここ数日、彼は商人からの護衛依頼を受け近隣の街まで同行していてトリエスタにはいなかった。
「あらおかえり! 予定より早かったんだね」
「戻りは身軽だったからね~……お腹も空いたし……」
「あはは! レイジーと待ってて~お弁当持ってくるから」
「……ありがと」
そのやり取りをレイジーは不思議なものを見る目で眺めていた。
◇◇◇
蒼が部屋に戻った後、レイジーはニヤニヤとしながらアルフレドのニコニコとしたご機嫌な顔を覗き込む。
「いつもみたいにさっさと別の街に移らないのはなんでだろ~と思ったけど、アオイが目的か~」
「ハァ!!?」
アルフレドは長期間同じ街に滞在することはこれまでなかったのだ。
同じく冒険者をしているレイジーはアルフレドとはこれまで何度も遭遇したが、これほど長期間同じ街で一緒に過ごすのは初めてだった。
明らかに動揺をしているアルフレドにレイジーは面白がって追い打ちをかけてみる。
「だっていつもなら護衛ついでに別の街に拠点移すじゃん。わざわざ戻ってきたりしないで」
「……そうだな。なんで戻ってきたんだろ……お腹すいてて……」
「え!? 無自覚!?」
まさかの反応に今度はレイジーが驚いた。アルフレドは本気で『なんでだろ?』 と考え込んでいるのだ。
「なんだよ~お前そういうキャラだったのかよ~」
レイジーの方はちょっとつまらなさそうにし始めていた。アルフレドはモテる。レイジーが狙っている女の子は誰も彼もアルフレドの名前を出すのだ。もしそんなアルフレドが蒼といい仲になれば、レイジーにとっては都合がいい。……その後女の子達に相手にされるかどうかは怪しいところだが、そんなことは本人は考えていない。
「いつも当たり障りのない人付き合いしかしねぇし……それがクールでカッコいい! っていう女の子いたけど……あーでもあの子きっと今度は意外性があって可愛い! っていうんだろ~な~」
そして途中で話がずれていることに気がつき、咳払いをして誤魔化していると、アルフレドは遠くを見ながら心底そう思っているであろう言葉を吐き出した。レイジーの話は聞こえていないようだ。
「アオイのごはん、なんであんなに美味しいんだろ……」
彼は蒼に質問するという習慣がないままだ。なんで? という単語を彼女の前で使わないようにしていた。
(アレ!? そういうのじゃなかった!?)
レイジーは思ったように反応が返ってこないアルフレドを持て余し始める。
(アオイじゃなくてアオイのご飯の方!?)
まさかそんな……と、思いつつも、わからんでもない、というのがレイジーの正直な感想だ。
「そりゃお前……恋のスパイスがかかってるから! って言いたいとこだけどよぉ~……アオイの飯はマジで美味い。それが理由だと言われたらオレは否定する術を持たない……」
そう納得したような顔で答えた。
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