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色々整理するのは当然で。

うちの女神カッコイイ。

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「『彷徨える禁書』なんて、さすがにおとぎ話だと思ってたわ」

 向かい合ってテーブルに着き、お茶を飲みながら近況を交わしあう。


 マチルダ先輩は、この春学園を卒業して、辺境伯領にあるギルドに就職。まだまだ覚えることばかりで失敗もあるけど、良い職場で楽しく毎日働いているとのこと。


 生まれた家は貴族だけど、跡取りは兄、ロゼルトがいて、貴族間の婚姻関係の維持には性格的に向いている姉や妹がいるので、自分はおそらくは平民と結婚して貴族籍は抜けるのだからそれに見合った仕事に就くのだとも在学中から言っていたので、実にさばさばした様子だ。


「まぁとにかく、あのアホ王子から逃げられたのは僥倖よね。あなた、本気で嫌がってたもの」

「それはほんとによかったよ。何もかもほっぽりだすようで、お世話になった人たちには悪いなって思うんだけど」

「大丈夫じゃない? みんなあなたに感謝こそすれ恨むような人たちじゃないわよ。私から連絡してもいいけど、それがまた騒動になると困るわよねぇ」

「勝手にやってくれる分には全然構わないんだけど、ボンクラたちのやることなすこと迷惑じゃないこと一つもないからなぁ」

 二人そろって出るところに出たら不敬罪になるだろうけど、言わずにおられない。


「それで──」

 これからのことを切り出そうとしたとき、ノックの音が響いた。

 壁際に控えていたメグがドアを開け、セバスとやり取りをし、辺境伯がお越しです、との一言の後、ご本人が登場した。そう言えば来るって言ってた。

 マチルダ先輩と一緒に立ち上がって、礼をして迎え、空けてあった上座に彼が着いて、座るように促される。


「学園卒業の挨拶以来だな、ルーガン子爵令嬢」

「はい。お久しぶりでございます。辺境伯様」

 メグが淹れなおしたお茶を前に、貴族然とした挨拶が交わされる。

「早速だが、本人を目にしてどうだ?」


「話を聞いて、半信半疑でしたが、こうして本人を目の前にすると、私が二年ほどともに過ごしたアリシア嬢で間違いないと確信しました。顔はほぼ、私の記憶にある彼女と一致します。顔の造作もですが、笑い方や喋り方やしぐさも、記憶にあるアリシアと同じであると確信しています。髪色、瞳、体形は、以前よりなんというか、華美な感じになっていますが」


 私と辺境伯を交互に視線を移動させつつ、はっきりした口調でマチルダ先輩が意見を述べる。キリっとしててかっこいい。

「そうか。他にアリシア嬢を知っている者たちとも顔合わせをして大丈夫か?」

「はい。大丈夫、です」

 聞こえなかったが語尾に『多分』みたいな間をおいて、マチルダ先輩がちらりとこちらを見てから頷く。


 私の同学年にも、他学年にも、辺境伯の寄子の貴族家の子女が数人いるので、近日中に彼らとも会うことが決まった。なぜに。

「あなたがアリシアであると証言する人は多ければ多い方がいいからよ」

 先輩が、ちょっと呆れたようなため息をついた後、今度はちらりと辺境伯の方を見て、アイコンタクトの後、再び私に向き直って。


「そりゃあなた……あなたの姿がここまで変わってるってことは、向こうだって同じようなことが起こってるってことよ?」


 あっ……



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みんなの感想(1件)

黄美
2022.09.15 黄美

言葉選びがとても上手い、読みやすい文章ですね!久しぶりにレベルの高い作品に出会えて嬉しいです。続きを読むのが楽しみです!   ヒロインの身体を乗っ取った悪役令嬢や、その他もろもろのやつらがザマァされるのが楽しみです。

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