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前世の記憶は突然に。
そんな人生経験は要らないよ。
しおりを挟む前世の記憶があろうが、私はか弱い女の子なのだ。一応まだ十三歳。
人の気配を感じて振り向いたところに、いきなり頬を、成人男性に思いきり叩かれたら、抵抗もできない。
頭はくらくらするし、めちゃくちゃ痛かった。奥歯がぐらついていたので、舌で戻して治癒魔法を使ってみたら戻った。治癒魔法すごい。もう二度と自分で体験したくないけど。
前だけど手を縛られ、馬車に乗っている間は足も縛られていた。
夜はどこかの村に入ったけれど、私は馬車から出してもらえなかった。
トイレの時以外。硬いパンと水のみ与えられ、ごとごと揺られてどこかに連れられて行く。
この世界、パンがあった!! こんな状況じゃなかったらもっと喜べたのに!! あと黒くて硬くてすっぱかった。
この時点では、自分を攫ったのが誰かはわからなかった。男たちは何も言わなかったから。
馬車で数日移動して、たどり着いたのはレットが入学した学校がある、大きな街だった。町の高台にあるお金をかけたんだろうけどなんとなく安っぽいお屋敷で、私は足の縄をほどかれた。
手の縄はそのままで、内装もなんとなく安っぽいなと思いながら連れていかれたのは、書斎っぽい場所。そこにある大きな机の向こうに、でっぷりと肥えたおっさんがいた。
頭がみすぼらしい。明確にハゲてるわけじゃなく、髪の毛が薄く細い感じなので余計貧相。
パンパンの顔も頭皮が透けて見える頭もてかっとしてる。なんか臭い。
むくんで落ちた瞼の奥の目。白いはずの部分が黄色く、もとは薄茶だっただろう部分は白っぽく濁っている。
「貧相だな」
お前に言われたくはないが当たり前だ。何日もお風呂に入ってない。一応、水魔法で体をきれいにしていたけど、櫛を通さない髪はボサボサ、洗濯できない服も、きれいとはいいがたい。でも絶対お前より臭くないぞ!
「本当にその娘が、とてつもない治癒魔法を使えるというのか?」
「桃色の髪と瞳の十代前半の女は、あの近辺ではこの娘だけでしたので」
喋れたのか誘拐犯!
ふんと鼻を鳴らして、おっさんがこちらに来る。いやだ。臭い。
後ろに下がろうとしても、誘拐犯がいてどうにもならなかった。逃げたいという思いが強くて、おっさんが何を持っているのか見てなかったのは仕方ないと思う。
「いっ!!!」
腕をまとめる縄を引いて、私の腕をあげさせ、おっさんがまるで何ともないという風に、私の腕を持っていたナイフで切り裂いた。
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