辺境で厳しめスローライフ転生かと思いきやまさかのヒロイン。からの悪役令嬢入れ替わり？

前世の記憶は突然に。

これはすごく怖くて寒いよ！

　
　
　
　
　穴の上に板を二枚渡しただけ！　真ん中が二十センチくらいあいてて、またいで座って用を足すスタイル。



「なんで前から入るの。後ろ向きじゃなきゃダメっていつも言ってるでしょう」

　バックで入らないと、ドア閉められないからね……でも、ここをバックで進むのほんと怖いのよ。


　バックで入ったら、ララがドアを閉めてくれる。

　恐る恐るズボンを下ろしてしゃがんで……ああ、しゃがむとにおいがすごい。

　当然だけどおしりを拭く紙などない。

　出入口の横に置いてある綿みたいなものは、大きいときに拭くためのもので、小用は女性も拭かない。

　もったいないから。

　水洗トイレとトイレットペーパーって素晴らしい文化だったんだね……やたら隙間があると思ったけど、風通らないとくさくて中にいられないからかな。

　丸出しのおしりがめちゃくちゃ冷える。


　せめて簡易水便の、たまったらぱったんってなるやつ。

　自動で穴がふさがればにおいもなくなるのに。

　二十センチの隙間って、下手しなくてもリリなら落ちるよ。レットも危ない。


　これは、早々に何とかしなければいけない案件ですよ！！

　どうやったらトイレ改善できるかな。


「終わった？　大丈夫？」

「うん。大丈夫」

　声をかけてララがドアを開けてくれた。

　高々トイレだけでげっそりしてる私を見て、怖かったのと寒かったのだと勘違いして慌てて家に連れて帰ってくれる。

　ちょっと憎まれ口をたたいてみるけどこんな寒い中、臭いトイレの横で待っててくれるし、ララって本当に、妹思いのいいお姉ちゃん……


　そのまま、獣の皮のお布団に寝かされた。

　きちんと洗ってあるので獣臭さとかは全然ない。

　それに皮だからかとても暖かい。柔らかくはないけれど。

　私のあとにトイレに行ったらしいレットが隣に入って一緒に寝てくれる。

　っていうか、この家の広さだと家族全員で雑魚寝だよね。


　お母さんとララは食事の片づけ、お父さんとお兄ちゃんたちは土間に向かって座って何か作業している。

　さっきまで寝てたし、トイレのことをぐるぐる考えていたら寝付けない。

　目を閉じてるけど。


　そうこうしてるうちにレットとは逆の位置にララが、その横にお母さんが休むためにやってきた。



「ねぇ　お母さん、リリ、大丈夫だよね？　もう大丈夫なんだよね？」

「ええ、大丈夫よ」

「ちゃんと生きてるよね。リリだよね？」

「そうよ、リリはちゃんと生きてるわ。ララも小さいころ同じように熱を出して寝込んだことがあるけど、あなたもちゃんと生きてるでしょう？　あの熱病は一度かかったら大丈夫なのよ。レットはリリが治してくれたから軽くですんだけど、リリは本当に……でももう大丈夫。ララがいっぱい看病してくれたおかげよ。あなたが一生懸命世話をしてくれたから、きっとリリは助かったの。ララも怖かったのね。もう大丈夫、大丈夫よ」


　ララが泣いている気配と、お母さんがポンポンしてる気配。ララのやさしさに私はまたちょっと泣いた。