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AFTER DAYS 終わらない日常
267 草野君香の視点 4
しおりを挟む『…………もう生まれちゃった』
………………………………
「えええええっ!?」
「うわっ! キミちゃんっ!!」
「君香なにやって……っ!!」
「あれ?」
えーっと。
「そんなところで立つなー!!」
視界がナナメ。
「いったー……い」
「痛いのはこっちだ早く降りろっ!!」
ちょっとびっくりしちゃってよくわかんないんだけど、とにかく私、教卓傾かせて落ちたみたい。教卓もコケてるから。で、杉本前キャプテンが下敷きになってるの。
「ナイスキャッチですキャプテン!! あの時もこのくらいカッコよくフライが取れてたらよかったですよね!!」
「君香お前……恩人の古傷えぐってるんじゃないっ! そんなことどうでもいいから早くどけ!! 人の上で座りなおすな!!」
……ゴメンナサイ。でも杉本前キャプテン、いつからここに?
「え? 音? 気にするな、なんでもないなんでもない。で? ああ、そうか。連絡? そんなもんあとから俺がしとくから休んどけ。じゃあ今から行くから」
いなりん病院行っちゃうの? じゃあ今日はこれで……
「いいとこに来たな、杉本」
電話を切ったいなりんがにっこり笑って杉本前キャプテンが起き上がるのに手を貸してる。私は? 私は放置ですか!? 女の子なのにっ!!
「ええ、まあ。自分の息抜きも兼ねて陣中見舞いに。で、何があったんですか?」
陣中見舞い? あ、ほんとだ、私の下敷きになったとき放り投げたのだと思われるお菓子やジュースが散らばってる。
「ちょっと病院行ってくるから、俺がいない間こいつら見ててくれ。一人も逃がすなよ」
「えーっ」
「やかましい。お前が一番時間がかかるだろうが。予定してる時間までに終わらなかったらお前だけおいてカギかけて帰るからな」
いぃいぃやーぁーーぁあっ!!
「あ、生まれたんですか? おめでとうございます」
あ。お祝い言うの。
忘れてた。
忘れていたのは私だけじゃなかったみたいで、いた人間がいっせいに、なんていうか体育会系イントネーションで『おめでとうございます』合唱。
「おう。じゃあな」
「マッテクダサイ!!」
「あ?」
そのままでていこうとしたいなりんの背広のすそを掴まえる。
「どっち?」
自分でいうのも変だけど、目がキラキラしてると思う、今。
「どっち? ねえ、男の子と女の子っ! どっちだったんですかー?」
「何でお前に言わなきゃなんねーんだ」
「だって! 聞かなきゃ気になってもう勉強どころじゃありません!!」
「賭けの配当が、か?」
「え?」
ナンデバレテルノ?
「お前が俺に敬語を使うときはなんか企んでるときだからな」
げ。
「や、やだなー ソンナコトシテナイヨー」
「どもりながら棒読みで、目ぇ泳がせてなに言ってやがる」
……………ダメか……しかたないな、リカちゃんが夏清ちゃんに教えてもらうまで待つか……だいたいさー今は生まれる前にわかるもんなのに、生まれてからのお楽しみとか言って、聞かないでいるんだもんこの夫婦。
「……それじゃあ僕が責任を持ってリカちゃんから集めた賭け金を没収して……現金は問題になるからダメでも出産祝いに何か買いますから、教えてもらえませんか?」
あああっ シロちゃんっ!! アナタ、なんてことをっ この賭けの元締めまでばらしたし……
でも、散らばったお菓子やジュースを拾うのを中断して、立ち上がってまじめな顔でそう言ったシロちゃんをみて、教室の前にある出入り口の戸に手をかけたいなりんが振り返ってちょっとだけ笑った。
先生が一度、目を閉じて、息を吸って。でも緩んだカオ引き締めるのに失敗してるよ。
どきどきって音が背景に大きな文字であるような、そんなひとコマ分の沈黙。賭けとかそういうのじゃなくても、やっぱりどきどき。
いなりんの唇が、やたらゆっくり動いた気がした。
「……ついてたってさ。男だよ」
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