やさしいキスの見つけ方

神室さち

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AFTER DAYS 終わらない日常

42c 草野キリカの視点 4 

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 体がぐらってなったの、エレベーターが止まるときの重力変化のせいじゃないよ。今、視界が二時の方向に傾いてるのも、地球のほうがナナメになってるんだと思う。
 なんていうんだろう。受験勉強でやった気がする。うーんと、ああ、セイテンノヘキレキ。もう漢字で書けないけど。
「キリカ、降りないと上がっちゃうよ?」
 エレベーターの中の手すりに、後ろ手にすがりついたまま動けないでいたら、降りてから開くのボタンを押しているカスミが笑う。
 すごいなぁ。膝に来るような一撃、久しぶりよ。
「いや、ちょっと。うん、なんだろうね」
 自分でもなに言ってるのかよく分らないんだけど。
「あー……なんか今、地軸の傾斜が変わらなかった?」
 くらくらする頭を両手で支えながら両足を交互に前に出す作業。
「うん。私もね、お昼に先生から聞いて、しばらくそんな感じだったよ」
 ナナメに体を傾けてカスミが私と対照のポーズ。
 そのうしろに、地下なのに大した音も響かせず、すいっと井名里先生の車がそばまでやってくる。カスミが助手席、私が後部席。ああなんだか、このシートにそのまま転がりたい衝動。
「でね、先生ひとりでするのも大変だし、誰か手伝ってくれないかなーって、思って。そう言えばキリカがいろいろやってたって言ってたから、どうかなって」
 どうかなって……私に選択の余地があるような言い方してるけど。
「断ってもいいぞ草野。そのかわりお前に上乗せした分の成績、男草野とプチ草野、あのタマゴコンビから引いてやるから。もちろん、どうして自分たちの成績が不当に低いかの理由も本人に言って」
「ぎゃーもう。やっぱり脅迫じゃん。シロは構わないけどキミはやめてよぅ。あの子の脳みそ私と変わらないのに。マイナスついちゃう」
 それにその『男草野とプチ草野』ってのもっ! シロなんかさ、通いだして一週間目くらいのころ『リカちゃん学校でナニしてたの?』とか聞いてくるのよ。なんでも行く先々で『ああ、あの草野先輩の……』って言われるんだって。アノってナニ? アノって!! 私なんか今目の前にいる人たちにくらべたら、何にもしてないに等しくてよ。覚えてなさいよ後輩たち。
 それでもって、私とシロは顔がよく似てて、逆にキミは外見小動物系って言うか、ちまっとコンパクト。全然似てないわけ。現状呼ばれ方に卒業した私を反映するってのは、一体どういう了見かしら。ホント、私、お姉ちゃんと違う学校選んでよかったわ。
「キマリだな」
「キマリだね」
「あああああああっ! そこっ! 勝手にハモって納得しないでっ!! 大体、カスミだってヒマでしょー? ルールなんかすぐ覚えちゃうだろうし。どーして私を引きずり込もうとするのよぅ」
「ごめん、私は当分ヒマじゃなくなるから」
「ナニ? バイトでも始めるの?」
「もっと忙しいこと」
 運転席と助手席の間からカスミが顔を出して、笑う。運転してるから前を向いたままの井名里先生の腕つついて、なんか合図送ってるの。くー。なんですか、らぶらぶですか? 二人のために世界が回ってるのね。宇宙の中心は自分たち。
「言っていい?」
「どうせバレるだろ」
「うん」
 短いやり取りのあとカスミがまたこっちを向いて、今度はさっきより、なんて言うかこう、照れたみたいな、でもすごいうれしそうな顔して笑いながら。
「あのね」
「うん」




「あかちゃんできたの」



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