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AFTER DAYS 終わらない日常
01 氷川実冴の視点
しおりを挟むバカがバカっぽいことやって、仕方ないからすぐ電話したわよ。お母さんともう一人、ちょっと個人的な伝手に。今日あたり、教育委員会にどう報告するか眠れずに考えてた校長のとこに『不問』ってことで連絡行ってんじゃないかしらね。
やっぱり、持つべきものは人脈。どんな無理難題でもふたつ返事で了解してくれるくらいの弱味は握っといて正解だったわよ。このくらいのコト握り潰すのなんか、アリ踏み潰すより簡単だろうから、これからもよろしくって言ったら返事なかったけどさ。
「お母さん、夏清ちゃんと礼良君の写真できたよ」
「写真屋さんがね、コレおっきくしたのお店に置かせてくださいって。いいよね?」
昨日、撮ってすぐ現像に出した写真を取りに行かせてた子供たちがばたばたと帰ってきて、だからサービスなんだって、と、写真屋のロゴが入った大きな封筒から慶が六切判に引き延ばしされた写真を出す。帰りが遅いと思ったらコレのせいか。
「いいよね、って、アンタたち、もう『いいよ』とか返事してきたんでしょう?」
どんな写真だろうと思ってみたら、みんなで写ってるやつだった。あろうことか、神父に撮ってもらったやつ。ほんとによく撮れてるね。
「「うん」」
にっこり笑いながら同時の返事。
逢はいつもの通りなんにも考えてない笑い方。慶は微妙に最近、笑い方が違うのよね。
「構わないでしょ。地元じゃないんだし。ウチも引っ越すし」
「あ、写真できたの? 見せて見せて」
声を聞きつけて、奥からコウちゃんが現れる。うわ、埃まみれじゃないの。写真、手ぇ洗ってから触ってよ。
「って、実冴さん、奥の部屋、いつから掃除してないの?」
「え? 掃除なんて一回もしてるわけないじゃない」
物置にしてる部屋だから、ここに来てから一度も掃除なんかしたことなくってよ。
「やっぱり……」
一度ベランダに出て埃を払って、手を洗ってからやってきたコウちゃんが当たり前のこと聞くから、当たり前じゃないって顔で応えたらそうつぶやいて笑う。掃除してなかった私も私だけど、納得されるとハラがたつわね。
言っとくけどね、他のところはキレイよ。だってちゃんとプロが掃除してるもの。
でもどうしても、こう、生活の負の部分と言うか、ゴミってほどじゃないものって溜まっちゃうのよねぇ……キレイなんだけど、今使ってるものでいいから置きっ放しになってる食器類だとか、飾るのもイマイチって額や置物が。
「うわぁキレイに撮れてるねぇ」
普通のプリントだとどうにも小さくて貧乏っぽいから、ウチで現像するときはいつもその倍の2L版。写真をめくってコウちゃんが礼良君とか指差して笑いながら子供と話してる。ヒトのこと笑ってるけどコウちゃんも大概だったでしょうがよ。もれなく自分がついてくるから出さないけど、写真なんか絶対。
「いつ頃来るんだっけ? みんな」
「んー……あの二人は今日は墓参りだけだって。昼過ぎには向こう出る予定って言ってた。理右湖たちも夕食時には来るみたいよ」
昨日、着替えてみんなで晩御飯食べた後、こっちにいてもどうせ煩わしい電話とかが来るくらいだからってあの二人、その足で別荘に行っちゃったのよ。夏清ちゃん曰くぷち新婚旅行。どうして今日帰ってこなくちゃならないかって言うと、明日が大学の合格発表の日だから。昨日は平日だったし、来られなかった神崎家の面々も呼んで晩ご飯食べることにしたのが今朝。だからあの二人は、理右湖たちが来ることは知らない。サプライズ癖が感染ったのかも。
哉君のところも呼ぼうかと思ったんだけど、雰囲気ぶち壊しになるから今日は却下。哉君が笑わないのはいつもの話だけれど、哉君が半径十メートル付近まで近づいたらこのコウちゃんまで笑わなくなるんだから、状況はサイアク。二人揃うと。どうしてこうも破滅的に仲が悪いの、この兄弟。
「晩ご飯、昨日届いた肉で焼肉。いい? 他にリクエストある?」
哉君呼ぶとメニューが面倒、ってのもあるんだよねぇ。呼ばない理由。あの偏食の原因は絶対お義母サンのせい。あの人、コウちゃん命って感じで、哉君のことは人任せにしてたもの。琉伊は女の子ってこともあって、ソコソコ気にはしてあげてたみたいだけど。
好き嫌いない……と言うより、肉大好きのウチの三人には異存はないようで。どうせ引っ越すから、匂いも気にせずにガンガンやろうっと。
野菜と酒が足らないな。買出しに行こう。
「そう言えば明日、夏清ちゃんお誕生日でしょ? ケーキとかどうするの?」
いつもみたいに焼くの? って顔でコウちゃん。私も今朝までは自分で焼くつもりだったんだけどね、人数増えたし、どうせだからウエディング兼ねたバカでかいのがいいかと思って。
「ん? もう頼んである。あ、それも取りに行かなくちゃならないんだわ。慶、逢、一緒に行く?」
「「行くー」」
「ついでに合格祝いと卒業祝いとあわせたお誕生日プレゼントも買おうか。コウちゃんはお留守番。片付けお願いね」
「え!?」
自分も行くつもりで写真を片付けていそいそ立ち上がったコウちゃんがびっくりしたあと、がっくりって顔になる。
「使えそうなモノあったら出しといて。夏清ちゃんや理右湖がもって帰るかも知れないから」
あとヨロシク、ってことで、コウちゃん置いてお買物にゴー。
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