やさしいキスの見つけ方

神室さち

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キス xxxx

3-3 歌

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 思い出したらなんだかハラが立ってきた。結局井名里には敵わないのだ。
 夏清がジュースを飲み干すのと同時に玄関が開いて、井名里が現れる。リビングで当然のようにくつろいでジュースを飲み、今日も学校で顔を合わせていたくせに久しぶりとでも言いたげに片手を挙げて挨拶をしている草野を見て、げんなりといやそうな顔をしたが何も言わずに自室に帰っていく。


「うがっ! ただいまもナシかい!?」
「大丈夫、キリカがいないときはちゃんと言うから、あの人でも」
「あー! もうそうやって人を邪魔モノ扱いするぅ」
「邪魔もの以外の何かだと思ってるのか、お前?」


 かばんを置いて部屋から出てきた井名里にそう言われて、うーんと考えてからやっぱ邪魔かもと納得している。納得したとしてもおそらく草野はここに来つづけるだろうが。
「だってだって!! なんで安月給の公務員で教師のクセにこんな広い家に住んでるのよ!? 私一人くらい混じったって大して負担じゃないよ、この広さ!!」


「悪かったな安月給の公務員で」
 夏休みの終わりのころ、やっと夏清が地元の大学に行くと納得したらしい実冴が、それなら引っ越さないかと言い出した。なんのことはない、井名里が住んでいるこのマンションは実冴のもちものだったのだ。九階にある一番広い部屋が空いてしまったものの、この不景気で入室者が望めずに空いていたのを、五階の部屋と同じ金額という身内価格で借りているのだ。五階の部屋にはもうすでに他人が入っている。


「どうでもいいから早く帰れ。今すぐ帰れ」
「いたいけな私のこと追い出してナニしようってんですかね、この人たち」
 追いたてるようにそう言う井名里に、草野がニヤリと笑う。
「アホか。飯食いに行くんだよ。出かけるだけだ」
「え? 出かけるの?」
 食事を作ろうとしていた夏清が振りかえって井名里に問う。


「ご飯? 実冴さんのとこ!? はいはい私も行きたいです!!」
 元気よく手を振り上げる草野に、誰が連れていくかと井名里が言う。
「草野、お前、本気で大学に行く気があるのか?」
「ううぅ あります」
「ならとっとと帰って勉強しろ勉強っ!! 死ぬ気でやらないとどこの大学も受からないぞお前、今のままだと。俺がかけた情けを無駄にする気か? その分二学期の成績から引いて欲しいか?」
「いやー!! それだけはヤメテクダサイ。わかってること言わないでよぅ……あー……もうっ帰るよ帰りますよぅ」
 ぶつぶつと文句を言いながら荷物をまとめて草野が立ち上がる。別にご飯くらいいいじゃないと、いいよと言おうとした夏清を井名里が止める。


「お邪魔しましたっ!」
「もう来るなよ」
「絶対明日も来てやる」
 ひひひひひ、と言う笑いを残して草野が帰っていく。


「塩撒け塩。あんなの家に上げてんじゃねぇよ、お前も」
「だって、ついて来るんだもん。それにキリカに教えてると確かに復習にはなるよ。うん。それなりに勉強のポイントは押さえようとはしてるみたいだし」
「ウソつけ、足引っ張りに来てるだけだろうがアレは。それより出かけるぞ」
 玄関に向かう井名里を追いかけて、夏清が聞く。


「え? ホントに出かけるの?」
「なんだそりゃ」
「いや、キリカ追い出す口実かと」
「電話あったんだよ実冴から。お前連れてすぐに来いって。用があるからついでにメシ食いに」
「ふーん」
 掛けてあったコートを取って羽織る。


「で、用ってなに?」
「知らん。どうせロクでもない事だろ」
 靴を履く夏清を待ちながら、井名里がそう言う。
「そうかなぁ」
「マトモなことで呼び出されたことあったか?」
「……ない、かも」


 急いで来いと言われて急いで行ったらただおいしい寒ブリが手に入ったとか、カスタードプリンがうまくできたとか、天然のわさびが手に入ったのでそばを打ったとか、大体そんな理由ばかりだ。確かにおいしいものが食べられるので行ってしまう自分たちも自分たちなのだが。
 立ちあがって、待っている井名里にしがみつく。
「でもいいや。ご飯作らなくていいし」
「だな。いくぞ」


 
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