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アンバランスなキスをして
5-1 宿
しおりを挟む夏清が入れられたのは、三畳ほどの小さな部屋。入ってすぐ渡された、軽い電子音を響かせた体温計を保健医の塩野に返す。なんだか、隔離部屋のようだ。
「狭いけど、大勢でいるよりはいいと思うから。熱は……三十七度八分か……微妙だな……薬飲む?」
井名里にべったりとくっついたから……ではないと思いたいのだが、体も心も少し落ち着いたが、薬はもらったほうがいい気がして頷く。
それを見て、塩野がウエストポーチから錠剤を一つ取り出した。
「コレは熱さまし。他に頭とかおなかとか、痛くない?」
「いいえ」
「最近は頭痛治まってるみたいだけど……無理しちゃダメよ? 前みたいに全部薬に頼るのもよくないけど、痛いのに無理することはないからね? 痛くなったら言ってくれたら薬だすから」
「すいません」
「いいのよ。とりあえず、コレだけ飲んで。ひとりで着替えられる?」
「ハイ」
「ごめんね、他にも具合の悪い子がいるから、そっちに行ってくる。少ししたらまた見にくるから、着替えて休んでてね」
「ハイ」
薬を置いて、塩野が出て行く。ばたんと戸が閉まる音に、ほっと息を吐いた。
井名里は、夏清を抱いてこの部屋まで運ぶと、さっさといなくなってしまった。スーツは借りたままだ。それを再び着て、着替えを持って夏清はよろよろと立ち上がる。
「トイレ、いかなきゃ」
バスを降りるとき、井名里は取っていいといっていた。一分一秒でも早く、あんなもの取ってしまいたい。
そっと戸を開けると廊下には誰もいなかった。はす向かいにトイレの表示を見つけて、なんとかさして広くもない廊下を横切り、トイレの個室に入る。
「……………で……取る、って……」
目の前にあるのは和式トイレ。
「取る……って、ことは……」
自分で、指を、いれなくてはならない。
ごくり、と生唾を飲み込む。
ショーツの両端に手をかけて、脱ぐ。
息を吸って、吐いて。
吸って、吐く。
何度か繰り返す。目を閉じて、手を伸ばす。
夏清は、自分で自分のそこに指を入れた経験が、一度もない。
自分の指より太いものが何度も入っているのだから、指くらい平気だとわかっていても躊躇する。
「んく」
くちゃり、と音がたった。雑念を振り払おうと頭を振って目を閉じて、息を吐きながら、指を進める。
先ほど達したばかりのそこは、びっくりするほど熱い。
指の冷たさが、ナカに伝わる。
ナカの熱さが、指に。
どちらも自分の体なのに、全然別のもののようで、夏清は思わず身震いする。
「あ……れ?」
指を進めると、どんどん奥に入っていく。力を緩めて出そうとしても、充血したそこから、簡単にでてこない。
「どう、しよう」
結果的に、また自分で奥まで入れてしまったことになる。
三度目に意を決して指を増やしてみても、躊躇してしまってそれの横に進入させることができない。なんの引っかかりもないつるつるした表面が憎らしい。
「や、ん……んふっ……」
このまま続けたら変な気分になりそうで、諦めて指を抜く。こんなことで病院に連れて行かれるのは絶対いやだ。じゃあ誰に頼めるかといえば、ものすごくいやだが一人しかいない。
「もー やだ」
怒りをぶつける相手がいない。がす、とトイレの壁に拳を入れるくらいしかできなかった。
着替えてふて寝をしながら、メールを打つ。最初こそ悪かったとか、機嫌を直せとか返事が来ていたが件数が四十を超えたあたりで一方的な攻撃になった。しかし、肝心のことが伝えられない。文字にして残るのがなんだかいやで、打ってもすぐ消してしまう。
「うー」
電話をかけようとして、やめること五回。どうして電話をかけるだけでこんなにどきどきするのかと考えてみたら、そういえば夏清から電話をかけたことがない。携帯電話をもらってから、一度も。
初めてかけるのがこんな用件なんて、悲しすぎる。
少し前からこめかみに偏頭痛。頭痛なんて本当に久しぶりで、また唸ってから両手で押さえる。
「頭痛薬ももらっといたらよかった……」
一人で暮らしていたときは、頭痛薬とはお友達だったので、常に持ち歩いていた。祖母が亡くなってからはほとんど毎日飲んでいたように思う。頻繁に薬を買いにくる夏清に、薬局のおじさんが、同じ薬では効きにくくなるからと三つくらいの薬を順に渡してくれて、ひどいようなら病院に行きなさいと再三言ってくれた。井名里と暮らすようになってすっかり治まっていたところを見ると、やはり精神的な部分が大きかったのかもしれない。
ため息をついたのと同時に、ぴ、と通話ボタンを押してしまった。慌てて切りかけて、かけたのだから切るのもなんだしとびくびくしながら井名里が出るのを待つが、全然出ない。
「むかつくぅシカト!?」
心拍数が上がったせいで頭痛がひどくなった気がした。二十コールを数えて、夏清が切ろうと耳元から離した瞬間、井名里の声が届いた。
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