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3 気づいたところで、もうどうしようもないのです。
あまりに早いと、止まったように見える錯覚。
しおりを挟む瞬きも忘れて止まってしまった私に、佐藤君がいろいろ声をかけてくれている。なんだかその声が、ひどく遠い。
「あーあ。やっぱり。まっすぐだからって届くってわけじゃないんだよなぁ」
「……むしろ、突き抜けました。胸を」
気づいたら心臓がバクバクなっていた。絶対結構な時間、心臓が止まってた気がするけど、まだ生きてる。
「えっと、なんで、か、聞いてもいいですか?」
「理由? まず顔」
「えっ!? 佐藤君こんなのが好みなんですか!?」
「……自分の顔をこんなのとか……街宮さんは十分かわいいと思うけど」
「そんなこと言うの、うちの父と佐藤君くらいだと思います」
真顔で反論したのに、佐藤君は笑いながら『いいお父さんだねぇ』とか言っている。
「メガネも似合うけど、俺はメガネ属性はないからない方がよりかわいいと思う。でも普段はメガネは掛けといてね」
えっと、あの、よく分からなかったんですけど。
「次はね、見た目完璧に仕事できそうで、実際仕事の手際がいいのに見惚れたの。さっきも言ったけど、俺、修理の合間にデータを全部見たから、街宮さんがどれだけ仕事できる人かは一目瞭然だったね。なのにさ、当人は何もないところで転びそうになったり、デスクの角を曲がるときに目測誤って腰をぶつけて一人静かに悶絶してたり、廊下歩きながらご機嫌で鼻歌歌ってたり」
うわぁ この人、どうしてそんなどうでもいいところばっかり見てるんだろう。
「一番最高だったのは、作業伝票に三回たて続けにハンコをさかさまに押し間違えてくれたことかな。三回目、ああまた逆だと思ったけど、あえて言わずにいたらホントに気づかずに押しちゃったときは笑いを堪えるの必死だった」
「おっ 教えてくれたらよかったじゃないですかっ!!」
それにそうだ、あの時は、三回目間違えてもう空いたスペースもなくて落ち込んだところに、逆さでもハンコがあればいいですよって言われたんだ。ならば一回目の時それを言ってって思った。
「佐藤君って、実は結構いじわるですか?」
「そうだね、小学生が好きな子にちょっかいだすくらいには。その時のことが面白かったからいつも街宮さんにハンコをもらおうと思うのに内藤さんが出てきてガッカリだったよ」
「私はいつも内藤さんに睨まれてびくびくしてたんですけど」
「だから、ごめんって。だって、街宮さんが彼女より年下だなんて、思いもしなかったんだ。年上なら軽くあしらえるだろうって。ふたを開けてみたら俺とは一回りも年下だったわけだけど。いやむしろ好都合みたいな?」
何が好都合なんですか。
全くもう。前言撤回。私、佐藤君に結構振り回されてました。
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