19 / 34
2 なんとなくもやもやする、のはなぜなのかと。
結果の原因を、自分のせいにしてはいけない。
しおりを挟む元気な店員の声に送られて店を出る。それらしい団体と言うか、やっぱり待ってらいれなかったらしく二次会に行くって言ってた人はもういない。
しめしめと駅の方角を見たら、そこに佐藤君が立っていた。
「逃げようとしてたでしょ、街宮さん」
「な、なんで」
「みんな先に行ったよ。いつものところだから場所も知ってるし、俺だけ待ってたの」
そう言って、あの逃げられないスマイルを佐藤君が浮かべる。
「反則です」
「こんなに長いトイレも反則です。寒空の下待ってた俺への労いとかはないのかな」
「……すみませんでした」
って、謝ってから気づく。別に私が待っていてと頼んだわけじゃなかったと。
「それに、さっきは全然親睦が深まらなかったし」
それは……佐藤君のせい──って思ったら、佐藤君の目が『俺のせいじゃないよね?』って光線送ってきたような。そうですね、内藤さんのせいです。ここにいない人のせいです。
「なんか、物凄く楽しそうに小畑君とずっと話し込んでるし」
それは、音葉ちゃんのせいです。
私も負けずに『私のせいじゃないです』光線を出してみる。すると佐藤君の目じりがふっと柔らかくなって、それを見たらこっちも自然と顔が緩んでしまった。
「よし、そういう事で行くよ」
どういう事ですか。
「私、カラオケ苦手なんです」
あの独特の音の混じり具合とか。他にもいろいろ理由はあるけど、自分から行きたい場所じゃないんです。
「歌うの苦手?」
いや、歌うのは別に苦手じゃないです。
「じゃあ行こう」
言葉にしなくても、なぜか考えていたことを見透かすように言って、佐藤君が私の右手首を掴む。
そこからビリっと電気が走ったみたいに感じたのは、当然私ひとり。佐藤君は手をつなぐんじゃなく私を逃がさないために腕を取っただけだから。
「歌いたくなかったら、それでいいよ。でもせめて俺の美声を聞いてから帰っても損はないと思うけど。俺、自分でいうのもなんだけど、歌うまいよ」
「……佐藤君は別に、普通に喋っててもいい声だと思うし、私、佐藤君の声、結構好きですよ?」
つい思ったまま答えたら歩きながら佐藤君が振り向く。びっくりした顔が見る間に笑顔になって『それは光栄』と茶化すように言う。
「あの、逃げないので手、離してください」
なんだか握られた手首が、どんどん熱くなってる気がする。
「ダメです。俺の事待たせてすみません分だから」
その熱が触れた場所から伝わってしまうんじゃないかと思って、頼んだのに、返ってきたのはよく分からない答えだった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
冷血弁護士と契約結婚したら、極上の溺愛を注がれています
朱音ゆうひ
恋愛
恋人に浮気された果絵は、弁護士・颯斗に契約結婚を持ちかけられる。
颯斗は美男子で超ハイスペックだが、冷血弁護士と呼ばれている。
結婚してみると超一方的な溺愛が始まり……
「俺は君のことを愛すが、愛されなくても構わない」
冷血サイコパス弁護士x健気ワーキング大人女子が契約結婚を元に両片想いになり、最終的に両想いになるストーリーです。
別サイトにも投稿しています(https://www.berrys-cafe.jp/book/n1726839)
優しい微笑をください~上司の誤解をとく方法
栗原さとみ
恋愛
仕事のできる上司に、誤解され嫌われている私。どうやら会長の愛人でコネ入社だと思われているらしい…。その上浮気っぽいと思われているようで。上司はイケメンだし、仕事ぶりは素敵過ぎて、片想いを拗らせていくばかり。甘々オフィスラブ、王道のほっこり系恋愛話。
ブス眼鏡と呼ばれても王太子に恋してる~私が本物の聖女なのに魔王の仕返しが怖いので、目立たないようにしているつもりです
古里@10/25シーモア発売『王子に婚約
恋愛
初めてなろう恋愛日間ランキングに載りました。学園に入学したエレはブス眼鏡と陰で呼ばれているほど、分厚い地味な眼鏡をしていた。エレとしては真面目なメガネっ娘を演じているつもりが、心の声が時たま漏れて、友人たちには呆れられている。実はエレは7歳の時に魔王を退治したのだが、魔王の復讐を畏れて祖母からもらった認識阻害眼鏡をかけているのだ。できるだけ目立ちたくないエレだが、やることなすこと目立ってしまって・・・・。そんな彼女だが、密かに心を寄せているのが、なんと王太子殿下なのだ。昔、人買いに売られそうになったところを王太子に助けてもらって、それ以来王太子命なのだ。
その王太子が心を寄せているのもまた、昔魔王に襲われたところを助けてもらった女の子だった。
二人の想いにニセ聖女や王女、悪役令嬢がからんで話は進んでいきます。
そんな所に魔王の影が見え隠れして、エレは果たして最後までニセ聖女の影に隠れられるのか? 魔王はどうなる? エレと王太子の恋の行方は?
ハッピーエンド目指して頑張ります。
第12回ネット小説大賞一次通過
小説家になろう、カクヨムでも掲載中です。
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
【完結】殿下は私を溺愛してくれますが、あなたの“真実の愛”の相手は私ではありません
Rohdea
恋愛
──私は“彼女”の身代わり。
彼が今も愛しているのは亡くなった元婚約者の王女様だけだから──……
公爵令嬢のユディットは、王太子バーナードの婚約者。
しかし、それは殿下の婚約者だった隣国の王女が亡くなってしまい、
国内の令嬢の中から一番身分が高い……それだけの理由で新たに選ばれただけ。
バーナード殿下はユディットの事をいつも優しく、大切にしてくれる。
だけど、その度にユディットの心は苦しくなっていく。
こんな自分が彼の婚約者でいていいのか。
自分のような理由で互いの気持ちを無視して決められた婚約者は、
バーナードが再び心惹かれる“真実の愛”の相手を見つける邪魔になっているだけなのでは?
そんな心揺れる日々の中、
二人の前に、亡くなった王女とそっくりの女性が現れる。
実は、王女は襲撃の日、こっそり逃がされていて実は生きている……
なんて噂もあって────
裏切られ婚約破棄した聖女ですが、騎士団長様に求婚されすぎそれどころではありません!
綺咲 潔
恋愛
クリスタ・ウィルキンスは魔導士として、魔塔で働いている。そんなある日、彼女は8000年前に聖女・オフィーリア様のみが成功した、生贄の試練を受けないかと打診される。
本来なら受けようと思わない。しかし、クリスタは身分差を理由に反対されていた魔導士であり婚約者のレアードとの結婚を認めてもらうため、試練を受けることを決意する。
しかし、この試練の裏で、レアードはクリスタの血の繋がっていない妹のアイラととんでもないことを画策していて……。
試練に出発する直前、クリスタは見送りに来てくれた騎士団長の1人から、とあるお守りをもらう。そして、このお守りと試練が後のクリスタの運命を大きく変えることになる。
◇ ◇ ◇
「ずっとお慕いしておりました。どうか私と結婚してください」
「お断りいたします」
恋愛なんてもう懲り懲り……!
そう思っている私が、なぜプロポーズされているの!?
果たして、クリスタの恋の行方は……!?
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる