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1 恋の始まりなど、いつだって気づかぬもので。
→ 回避。しかしまわりこまれた!
しおりを挟むなぜなの。
平日真昼間、ここは駅から歩いて五分もかからないビジネス街。いつもならすぐに捕まるタクシーなのに、やってくるのは悉(ことごと)く、乗車だったり配車だったり。
二月ももうすぐ終わりで、時々春めいた日があるものの、今日は風が冷たい。
ちゃんとコートを着ているけれど、タイトなひざ丈のスカートから出た足元はストッキング一枚。
自慢できるくらい冷え性なのよ私。
寒い。
早くタクシー捕まえないと耐えられない。
神様、私は何かあなたの気に障るようなことをしたでしょうか。
内藤さんの気に障るようなことをしたのは覚えているけれど、それが理由なら何て理不尽で依怙贔屓なんですか。
分厚い封筒を抱えたまま、車がやってくる方向を見てタクシーを探していたら、するりと一台の車が目の前に止まった。白いハッチバックセダン。ボディに青い文字で会社名が入っている。
実用重視の社用車は、パワーウインドじゃなかったらしい。
運転席から身を乗り出して、佐藤君が助手席側の窓を十五センチくらい開けて突然の登場にポカンとしていた私に隙のない笑みを浮かべて声をかけてくれた。
「どこまで? よかったら乗っていく?」
えーっと。なんでここに佐藤君が?
そんな疑問が湧いたものの、重ねて佐藤君が自分が帰る会社の方向を言ってくれて、迂闊に『方向は同じですけど』って言ってしまったのがいけなかった。
「ああもしかして第二営業所? あそこも前に行ったことあるから、場所も知ってるよ。乗って行けば? さっきラジオでこのあたりの電車が信号事故で止まってるって言ってたから、当分タクシーは来ないと思うよ」
そう言って、私が応えるより先に佐藤君は助手席に置いていたSEの必需品がたっぷり詰まった巨大で重そうなバッグを後部シートに移動させてドアを開けてしまった。
「どうぞ? あんまり座り心地のいいシートじゃないけどね」
確かにタクシーが来なくて困っていたし、事故が本当なら佐藤君の言うとおり、駅から少し離れたこの辺りで、駅とは逆方向へ向かう空車のタクシーを捕まえるのは困難だとはいえ、乗ってしまっていいものか。
「ほら、寒いし。それにこんなところで時間使うと誰かに見られて誤解されちゃうよ」
心持ち上半身を仰け反らせるようにしている私を、車の中から見上げて、からかうように促す佐藤君。
その言葉にはっとして辺りを窺う。
こんなところで親しげに佐藤君と話しているところを内藤さんやそのお友達に見つかったら大変だ。
キョロキョロした後、身を隠すように思わす車に滑り込んだけど、これは逆に誤解が誤解を生むパターンでは? どうか内藤さんが見てませんでしたようにっ! ああ、日本語おかしい。
条件反射でしっかりシートベルトを締めたら、車がゆっくり走り出した。
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