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嵐の前の静けさ
ぐぬぬぬぬ。うらやましくなんかない。
しおりを挟むなんだろう、この既視感。
うん、だって、なんかもう、ずっと前みたいだけど、昨日のことなんだから、覚えてなかったらびっくりだよな。
あっという間に脱衣所に連れ込まれて、二人がかりでこれまたあっという間にひん剥かれた。着てた服、頭から脱がなくていいって言うか、足抜かなきゃ脱げないから、頭に変なモンついてても取る口実にもなりゃしない。
いつの間にかワイシャツやなんかをあっという間に脱いでた柊也に引きずり込まれた先は当然、浴室。
ネコ耳、濡れてもいいの、コレ?
もちろん、抵抗しなかったわけじゃなくて、全力で抗ったわけだけど、両耳サラウンドで。
「縛りますよ?」
「縛っちゃうよ?」
って、言われたらさすがに一瞬抵抗もできなくなって、ハッと気づいたらもう双子の思うまま。
「マコー? バニラとキャラメルとラテ、どれにする?」
藤也の手には、白とこげ茶と薄茶の、ガチャポンくらいのサイズの玉。
「な、ナニソレ」
「バスボム。入浴剤みたいなもん? 効能は香りでリラックス程度しかないけど」
入浴剤かよ。なんか変なモンかと思ったじゃんか! ほっとしたのを悟られないようにしながら、なるべく普通に聞こえるように適当に選ぶ。
「んじゃ、キャラメル」
「あいよー」
俺が応えると、まだ湯張り中の湯船の中に、藤也がこげ茶の玉を投げ込んだ。すぐにぶくぶくと溶けていって、お湯の色が白茶色になる。なんか、甘く焦げた匂い。確かに、キャラメルの匂いだ。
「入浴剤って、草津とか登別とかじゃないの?」
「意外とおっさんクサい趣味だな、マコ。入浴剤は日々進化してるのだよ? 他にもケーキシリーズで、イチゴショートやモンブランなんかもあるから買っといてやるよ」
……別に、いらないけど。それより、買っとく、ってことは、今後もこの状況が継続するってことか? 絶対ありえないし!
母さん達、帰ってきたら、絶対、ぜーったい、家に帰るし!! いやそれよりもッ 今日は……今日も連れ込まれたけど風呂は一人で入りたいしッ!!
「流しますよ? 真琴」
「ぴあっ!?」
ちょっと前のめりで、大事なトコ隠しつつ立ってた俺の背中にシャワーのお湯。脱衣所で服を脱いでる気配の藤也と言い合ってるうちに柊也が調節してたみたいで、冷たくはなかったけどびっくりした。
「どういう声をだしてるんですか。流したら入りますよ」
流しっぱなしのシャワーをフックに掛けた柊也に背中を押されて、そろそろと浴槽を跨ぎ、甘い匂いの白いお湯に入る。当然のように柊也も。でも湯に入っちゃえば濁ってて何も見えないから、変に隠さなくてよくて楽。
藤也ん家の風呂は、特別広くも狭くもない。間取り的に多くても二人くらいの子供がいる家庭までがターゲットっぽいから、一応複数人でも入れるくらいの広さ。
多分、大人二人、もしくは、大人と子供二人……なら充分だけど……
男三人だと、実際のところ狭苦しい。俺は自分で言うのも悲しいけど、コンパクトな方。でも、双子は結構でっかい方。しかも脱いだらすごいタイプ。
ぐぬぬぬぬ。うらやましくなんかない。
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