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愛し君へ
38 side哉
しおりを挟むなんだかんだといいながら、するりと落ちるように眠りについた樹理の横で、今朝届いた新聞を広げる。見出し記事はすでに読み終えているが、細かい記事を拾い上げたり、広告を見たりするのも時間つぶしにはちょうどいい。
没頭するわけでもなく、淡々と文字の上に視線を滑らせていると、普段なら聞き落すくらいに小さく、ベッドがきしむ音がして、哉は何気なく顔を上げた。
「樹理!?」
眉間に刻まれた皺。無意識だろうが、腹を庇うように両手で抱えている。
片手でその手を取り、あいた手で、ナースコールを押す。
すぐさま、数人の看護師と両国崎がやってきた。部屋に入った瞬間、両国崎がスンと鼻を動かす。
『破水した。緊急帝王切開。このまま運んで』
ベッドも点滴スタンドも、無音のままスルリと動き出す。移動する人々に、自然、足がついて行ってしまった。
『抗生剤投与開始。麻酔は部分……いや、全身で。輸血の用意も頼む』
看護師たちの返事を聞いて、前を歩く両国崎が哉を振り返る。
「さて、最終確認なんだが、最悪の事態、どちらを優先してほしい? 樹理さんにはずっと前に聞いたんだけど、一応、ご主人の意思も聞いておきたい」
いつも軽い両国崎の眼差しが、いつになく真剣だ。まるでこれから何かと命を懸けて戦いに行くかのように。
「どちらも、だ」
「おう。間髪いれないね。了解だ。死力を尽くそう。あとちなみに、樹理さんも同じだったよ。この子を産まない選択も、この子だけ残す選択もありえないってね」
「できるのか?」
「やれと言われたら、やりますよ? 救急搬送されてきた時だったら胎児は確実に無理だったけど、ここまで持たせたんだから。そりゃ、どっちか決めてもらった方が楽だけどね」
しゃきっとしていれば美人と言って差し支えない顔に、ニヤリと人の悪い笑みを乗せて、両国崎が赤いランプのついた手術室のドアの向こうに消えた。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
私が子供を産んだ産院の助産師さんは、においで破水を判断してた。羊水の独特のにおいらしいけど、プロってすごいなって思ったのです。
長女の時、ほかの病気も見つかって地元の病院で出産できなくて遠くの対応してくれる病院選んだんだけど、長男も慣れた病院で生みたくて遠かったけど同じ病院で生むと決めたため、息子の時は促進剤使いつつ前日入院で対応してもらったんだけど、いい病院選べてよかったと今でも思ってる。って言うか、あそこじゃなきゃ長女(現在高2)は生まれる前に死んでた・・・
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