幸せのありか

神室さち

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愛し君へ

33 side瀬崎

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「ま、迷子になるかと思った……」

「なってただろう、実際」


 恐らく、なるべくわかりやすいようにと哉なりに気づかっての指定であろうビジネス街のど真ん中にある、日本でもチェーン展開しているコーヒーショップ。


 しかし、訪米翌日で、表向きの用事があるはずの現地法人への出社も済ませていない瀬崎には、宿泊先であるホテルから三十分以上かかる場所への移動はただの苦行だった。落ち合った直後、紙幣を手渡され、自身の英語力を試されているとしか思えないような長いメニューを注文させられた。


 呪文のようなそれを丸暗記してレジへ向かったものの伝えきれず、最終的に苦笑する店員が出してくれたメニュー一覧で何とか注文できて、ようやく渡されたカップを持てやってきた瀬崎が、小さなテーブルに突っ伏すようにもたれかかる。


「甘すぎるな」

「副社長がアホみたいにトッピング追加するからでしょう! なんでシンプルにカフェモカで妥協しないんですかッ!」


 机に置かれたホイップやシロップがだらだらかかった上にクラッシュしたクッキーやアーモンドなどがてんこ盛りのカップに刺さったストローに口をつけ、一口飲んだ哉が、カフェモカが入った瀬崎のカップと勝手に位置を変える。しっかりストローだけ交換するのは忘れない。


「うええええ」

「疲れてるならそっちの方がいいだろう。で、何の用だ」

「またまたー 大体わかってるくせに」

「お前は妖怪の最終兵器だろう」

「自分のひいおじい様捕まえて妖怪とかダメでしょう」

「十分だ」


 言い切ってカフェモカを飲む哉に透かして、自前の歯がまだ十五本残っていると自慢しながらひゃっひゃっひゃっひゃと笑っていた老人が被る。徐々に背が縮んでいる気がするものの、未だ矍鑠(かくしゃく)として腰も伸びているその姿を。


「まー……表向きはお使いですかね。誰でもできる」


 とは言え、初めてのお使いがin New Yorkとかシャレにならない。


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