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愛し君へ
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しおりを挟む大橋たちとほぼ入れ違いで哉が部屋に帰ってくる。
哉の出した結論は、受け入れ可能な病院が見つかり次第、船が契約しているヘリコプターを利用して陸に戻ると言うものだった。ヘリコプターでの移動に若干の不安があるものの、いつ何が起こるとも限らないので、できるだけ早めに診てくれる医者を探し出し、そちらへ移動する。
そうと聞いて荷物をまとめようとした樹理を休ませて、哉が代わりに作業を始めようとしたのだが。
クローゼットに満員の樹理の衣装をみて、さすがに買いすぎたかとため息を吐いた。
困難だろうと思われた、日本流に早産に対応してくれる病院は、意外にもあっさり見つかった。
否、樹理たちにとってはあっさりでも、日本の病院では上を下への大騒ぎで、医師の伝手を手繰り漁った結果なのだが。
アメリカに医療留学経験のある勤務医の知り合いの知り合いの……と、当てを繋いで、結局たどり着いたのは日本人医師が開業している産婦人科だった。
自由の国では、医療もどんなニッチにも対応するよう幅広いものらしく、わが子を産みたいと言う思いを抱く母は万国共通。主流はどうあれ、探せばどうにかなるものなのだ。
受け入れが受理された最大の理由は哉の財力だったのだろう。
決まってからは入国に関する書類の作成だの、生活の拠点をどうするかだの、多すぎる樹理の衣類の整理だの、哉は本当に慌ただしそうにしていた。
緊急時とは言えさまざまな申請が必要で、哉が雑事に忙殺される時は、大橋たちがそれはもう大事にしてくれた。船内とは言え、食事処から部屋まで送迎してくれたり、樹理を一人にしないよう気を配ってくれた。その他の女性陣もだが、男性陣もこれまでに輪をかけて優しい言葉をかけてくれるし、スタッフについては言わずもがなだ。
手続きもこちらからのアクションについてはあらかたを終え、了承を待つだけになった日の晩から、許可さえ下りればすで確保済のヘリコプターで船を離れることになる。というわけで、乗船している宿泊客たちがなんだかんだと気遣いながらも毎日毎晩盛大な『行ってらっしゃい会』をしてくれた。お別れ会ではないらしい。
なんだかとにかく人の優しさが心にしみて、嬉しくて泣いてしまった。
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