幸せのありか

神室さち

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愛し君へ

13 side哉

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 早期流産の原因は、主に受精卵の方にあるというのが定説だ。流産と言う事象自体は、妊娠に対して十%から十五%の割合で起こるものなので、決して珍しいことではない。


 積極的治療をしていないにもかかわらず流産をすると言うことは、自然妊娠があったと言うことで、今後も妊娠の可能性がゼロになったわけではない、とも付け加えられた。


 そんな医者の言葉が、慰めになるわけではないが、哉は仕方のないことだと諦めることもできた。


 ただ、妊娠しづらい上に、流産しやすい体質かも知れないと言われた樹理の落胆ぶりはすさまじく、どうしたものかと頭を悩ませる。


 その日は、急に本社へ帰らず、入院する樹理についていたので図らずも直帰と言う形になったが、瀬崎の『急な腹痛で戻れそうにありません。副社長も送って行けないので帰って頂きます』と言う見破って下さいと言わんばかりのウソを、篠田はすんなりと受け入れた。


 樹理はしかるべき処置の後、一泊だけ入院して家にいるものの、ため息の量は増え、なんだかぼんやりとしていることが多くなった。

 そんな樹理に掛ける言葉も見つからず、ただ横に座っているだけしかできなかった哉に、樹理がぽつりぽつりと紡いだ言葉。



 医者には伝えていなかったが、樹理は手術や受診を受ける前に、二度ほどひどく重い生理を経験していた。


 今回と同じように、少し遅れているかなと思っていたところに突然の出血と、しばらく寝込むほどの倦怠感。あの時は、そんな可能性など考えもしなかったが、もしかしたらあれは、気付かなかっただけで、ただの生理ではなかったのかもしれない。


 今回は、妊娠を認識し、ひどく動揺したので大ごとになったが、状態としては似通っている。


 知らないうちに、気付かず無くしていたかもしれない命があったかもしれないという思いは、樹理をより一層悲しませ、落ち込ませた。


 もっと早く治療して入れば。


 もしかしたら、今回、違った未来になっていたかもしれない。




 たら、れば。


 もうどうしようもないことだが、後悔とはそう言うものだ。


 比例して、哉の溜息も増えていたのかもしれない。



『妻が、久しぶりに樹理さんとランチでもご一緒したいと言っていますが、どうですか?』

 最近は瀬崎に運転を任せることが多くなった篠田だが、腹痛で職務放棄するようなものには任せられないと、冗談だか本気だかわからない理由で、その日の運転手は篠田だった。

 何気なく問うような口調に、ため息を普通の息に変えて誘ってやってくれと頼む。


 篠田の妻には何度かあったことがあるが、樹理に輪をかけてほわほわした人だった。彼女ならば間違っても樹理を傷つけるようなことはないだろうし、家で鬱々とすごすより、気分転換に出かけるのもいいだろうと思ったからだが、篠田の妻と会った後は、樹理は見違えるほど元気になった。どんな話をしたのかは女同士の内緒ですと教えてくれないが、いい傾向だと思っていた矢先。





 あの女から手紙が届いた。


 しかも、どうやら直接ポストに投函されていたらしい。


 樹理の精神的、肉体的な状態も考えて、会うことについて哉は反対した。基本的に樹理がしたいようにすればいいと思っていたが、こればかりは。


 しかし樹理は、せっかくこうして歩み寄ってくれたのだからと、珍しく譲らなかった。




 しぶしぶ会いにいった結果が、これだ。



 どうやら流産の件については、あの女の情報源は感知していなかったらしい。それだけが救いではあるが、それ以前のこととて、十分に樹理を打ちのめすに値する情報ばかりだった。


 どうしてこうも神経を逆なでするようなことばかり仕掛けてくるのだろう。


 気に入らないのなら気に入らないで、こちらのことなど放っておいてくれればいいものを。




 そこまで考えて、ふと、呟いていた。


「……いっそ、こちら側が何もかも放り出してみるか」




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