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愛し君へ
5 side琉伊
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‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
しがみついたままの萌花を抱く樹理と、渡された大荷物を肩から下げた哉が、玄関から駐車スペースへ向かうのを、じゃあよろしくと琉伊が見送る。幼児の乗車に必須のチャイルドシートは、預かってもらった初めの頃こそ琉伊の車から哉の車へ取り付け直していたが、ある日気づいたら哉の車に井名里家からのおさがりらしいものが常備されていた。
「ほんとに、いろいろいっぱいお返ししたかっただけなのに、申し訳ないことしちゃったなぁ……」
三年程前、琉伊に結婚しようと思える相手ができた時も、母は当然のように反対した。主に、本人では覆せない部分を指摘して。そう言うところを察知する嗅覚は一種才能だと思う。無駄だが。
その際、樹理と哉は精神的にも経済的にも琉伊にとてもよくしてくれた。
結婚後も、今日のように萌花を預かってくれたりと、世話になりっぱなしの兄夫婦。感謝してもし足りないのに、受けた恩を返そうとしたところが、この事態だ。
一人ごちた後、琉伊は再び玄関から実家に入る。
勝手知ったる自分の実家。
母が敵を持て成す部屋がどこかくらい、わかりきっているのだ。
廊下を渡りながら、琉伊がまたため息を吐く。
大体、全てにおいて私が悪いのよね。と。
何気ない一言だったのだ。
萌花が生まれた時に自宅に見舞ってくれた樹理に、本当に何気なく、多分、いろいろハイになっていて、普段なら遠慮して言えない、言ってはいけないことを、言ってしまった。
『樹理ちゃんも産んじゃえばいいのに』
生まれたばかりで琉伊でさえ上手く抱けない我が娘を、本当に本当に、ものすごく慈しみ深い笑みを刻んだ顔で抱く樹理を見て、赤ちゃんがそんなにかわいいのなら、さっさと産んじゃえばいいのにと思った。
年はずいぶん下だけれど、結婚は樹理たちの方が早かった。きっとすぐに産むだろうと思っていたのに、既に二年ほど経ったその時点で、二人に子供はまだいなかった。
まだ若いし、急ぐ必要もないからかななどと勝手に結論を出して、琉伊もそのことについてはそれまで全く触れなかったのだが、つい、ぽろっと。
口から出た言葉は、もう飲み込むことはできない。
琉伊の言葉に、ハッと上げた樹理の顔を見て、失敗したと思った。
泣きそうで、後ろめたそうで、それを必死に笑顔で隠した表情。
『ほしいんだけど、なかなか、できなくて』
ごめん今の無し、と、琉伊が謝る前に、抱いた萌花を返しながら、樹理が小さくつぶやいた。
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