幸せのありか

神室さち

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OUT OF DAYS

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 なぜか受話器を胸元に抱えたまま、瀬崎がかろうじてそう返事をする。ウソはついていない、ウソは。原因はともかく、親子喧嘩の末であることは真実だ。


「だから、親子喧嘩。社長と」

「またまた瀬崎ちゃん、ウソつくならもうちょい上手いこと言わんと」

「ウソじゃないですよ。ホントに。本気で。あ、あと増本さん、室長も一緒に出社拒否です」


 探るような和の目から何とか視線を外して増本の方を見て後半の言葉を綴ると、増本が先ほどの瀬崎に負けないほどの悲鳴をあげる。

「何なのっ!? グルなわけっ!?」

「その辺りは俺にはなんとも……でも、辞表は大阪副社長のおっしゃるとおり、最高顧問預かりで保留だそうです。親族間のことはあちらで何とかして頂けるそうなので、俺たちは副社長が帰ってこられたらいつでも仕事が出来るように環境を整えて置くように、だそうです」


「……無駄に前向きな提案だけど、実行できるの?」

「力及ぶ範囲内で善処します。それで、ここにこれ以上いても新しい情報は出てきませんがどうされますか?」


 なんだか悔しそうな顔の増本を置いて、瀬崎が和を見る。こちらはこちらで、なにやら難しい顔で虚空を数秒凝視していたが、軽く机を両手で叩いて立ち上がった。


「ふーん。ま、そやろな。ほなお暇(いとま)させてもらうわ。公(こう)は役にたたへんしアレの嫁はん怖いしなぁ、ほんなら琉伊(るい)か。あの子の携帯残しとったかなぁ ああ、あるある。って。何やココ、どこの秘境じゃ 携帯入らへんやんけ」


「……高層階なので、ここは電波が届きにくいんです。小型アンテナの開発に成功したので秋には設置される予定なんですが、今のところ圏外になることが多いですね」


「なんやもう、しゃぁないなぁ 久木、降りるで。久しぶりに別嬪さんの顔拝みに行こか。ほな、邪魔したな」

 ドアを開けると人だかりが見える。隙間から泳ぐように出て行ってくれたので、他の進入を許さないままカギを掛けることに成功したが来た時同様、まだ混雑を見せる──どうやら中の会話を必死で聞き取ろうとしていたらしい──野次馬を再び関西弁で翻弄しながら和の声が遠くなっていく。


 ただし、親子喧嘩らしいでー と、今さっき手に入れた情報を垂れ流しにしながら。



「……何しに来たんですかね……」

「水のみに来たんじゃない?」


 嵐が去ったあとに呟いた鈴谷に、増本がフンと鼻を鳴らしながら答えた。


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