幸せのありか

神室さち

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OUT OF DAYS

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というわけで、我らが瀬崎君の出番ですよー!
前の章の続きです。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐



 電話が通じない。何度かけても、電波の届かない場所にいるか、電源が切られているとのアナウンスが無情に受話器の向こうから流れてくるだけ。

「……掴まらないわね」


 舌打ちをして増本がフックを押して、受話器をそのまま机に転がす。そうしておかないと、方々から電話がかかってきて鬱陶しいことこの上ないからだ。ついでに、廊下には瀬崎を立たせて、彼が背にしている秘書室へと繋がるドアは内側から鍵をかけてある。押しかけてきた役員も門前払いしている現状。


 そしてその、ドアの外で電話以外の対応の全てを押し付けられた瀬崎が脂汗を垂らしながら何があったのかと説明を求める輩の相手をしているのだが、瀬崎自身、何があったかわからないのに説明の仕様がないというものだ。





「これはこれは、だいこんらーん♪ やんか。ちょぉっとすんません、通してー」

 副社長である哉が天上会議で辞表を出したらしい。そんな情報が駆け抜けて約一時間。それ以外の情報が全く出てこないので、事態は程よく発酵中である。そんな中に、突き抜けて能天気な関西弁の声がよく通った。人垣にぐいぐい割り込んでやってくる、黒ぶちの眼鏡をかけた男性。


「はいすんませんね、通したってー 俺、そこの秘書君に用事あんねん。あー ほんでナニが聞きたいのかなココに居る人々は。哉が辞表出したんはホンマやで。色々あってんて。そこら辺は己で考えてな。ハイ、ほんなら。って、カギかかってるやんか。開けたってー」


 さり気に瀬崎を押し退けてドアノブをガチャガチャ回して開かない事を知り、さして強くないノックを繰り返す。ほんの少し開いたドアに身を滑り込ませると同時に、外にいた瀬崎の首根っこも引っつかんで中に連れ込む。そして、外の野次馬が入ってこないよう、影のように添っていた同じく眼鏡の男がドアを閉め、すかさず鍵もかけてしまう。


「あー めんどいわ。ホンマ。ごめんやけどなんか飲むもんない? この際、水でもええわ」


 普段篠田が座っている室長のイスにどっかりと腰を据えて足を組み、これ見よがしとも取れるような盛大なため息をついて早口の関西弁でまくし立てる男をぽかんと見ていた鈴谷が給湯室の冷蔵庫に、ドリップコーヒー用においてあったすでに半分ほどになっているが二リットルサイズのミネラルウォーターとグラスを持ってきて差し出すと、ペットボトルの方を取って、そのまま口をつけて一気に四分の三ほど飲み干してしまった。


「突然失礼して申し訳ありません。こちらはこう言う者で……」


 くっついてきた銀縁眼鏡の方が、残ったミネラルウォーターをグラスに注いで飲み、一息ついたのか、大してずれているようにも見えなかった眼鏡のブリッジを押し上げたあと、名刺入れから二枚の名刺を取り出して瀬崎に差し出してくれた。


「……あ、はい」


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