258 / 326
OVER DAYS
23
しおりを挟む「ちぇーっ 同じカマのメシ食うた仲やのに、なんなん冷たいなー あ。なんか疑(うたご)うてるやろ。ホンマのホンマに哉とは俺、小学生の頃三年くらい一緒におってんで、本家で。母親病弱で入院する度(たんび)に預けられて。母親亡(の)うなった後もちぃと間。あん時はまだ代替わり前やったでじいさんとこやけどな。結局父親が京都転勤決まって、一緒について行ったから哉が神戸来るまであんまり会わへんかってんけどな。神戸来てからは良う逢(お)うとってんで。電話一本『バラすで?』言うたらちゃんと逢うてくれたし。で、ホンマ、ナニがあってん?」
開いたドアを、愚痴を言いながらも当然として先に下りた和が振り返り、真偽がつかない顔をしていた篠田にどんどん言葉を重ねている。最後のほう、弱みに付け込んで振り回していたと白状しているが、本人は気付いていないらしい。
「プライベートは存じません」
いつも通り、すっと伸びた背を見送って、篠田が慇懃に答える。
「……まぁ 期待はしてへんからええけど。いっつも退屈ばっかりやけど、今日はなんかおもろいことありそうやなぁ ほなな~」
出会ったときと同じく、ヒラヒラと手を振りながら和が大会議室へ入っていく。一緒にやってきた大方の秘書は隣にある五分の一ほどの会議室が控え室になっているので、大概がそこにいる。顔見知りやこちらから挨拶をすべき相手に一通り声をかけて、珍しくフル稼働で中々捕まらない重役用のエレベータを諦めて、こちらもカードがないと開かないドアが付いている階段を使い一階下へ降りる。
氷川和はいつもチャラチャラしているが、その実、内面はクールだ。裏の裏の表まで計算高く見極めようとしている節があり、要注意人物。大阪で関西の重役が多く揃った臨時役員会での顔合わせでは胡散臭さが全開で、下らない話ばかりしていた印象だったが、柔らかい曲線を描く眼鏡で多少ごまかされているものの、その瞳まで笑っていることは稀であると言うのが、予定時間を大幅にオーバーした面会で篠田が得た感触で、実際その前から聞き及ぶ評判もその後の調べでもこの若さでほぼ関西エリアを掌握していると言う。
彼の貼り付けた笑顔とその内側の温度差が違和感だったが、先ほど言い訳がましく彼が付け加えた生い立ちでおぼろげに判った。彼も哉と同じ教育を一時期受けていたのだ。恐ろしいほどの無表情と笑顔武装。各々の性格の違いだろう。同じ笑顔でも、ウラを感じさせない哉の兄のものとは全く質が違っている。
その人物が、厳密に二人きりではなく己のテリトリーの内とは言え、本当に楽しそうに哉に話しかけていた。篠田でさえ少し前にやっと判るようになった哉の表情の変化にもすぐに気付いたようだった。
篠田の中で漂っていた漠然とした予感めいたものが、スッキリ片付く。こちらも認証が必要な階下のドアを開けながら、篠田はポケットに手を入れて、その中の車のキーを玩んだ。
0
お気に入りに追加
181
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
【完結】やさしい嘘のその先に
鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。
妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。
※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?
雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。
最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。
ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。
もう限界です。
探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。
妻のち愛人。
ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。
「ねーねー、ロナぁー」
甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。
そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる