幸せのありか

神室さち

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なつまつり

15 side哉

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「抱っこする? もうしっかりしてるから抱きやすいよ、ハイ」

 ぽんと差し出されて、手を出してしまったのは条件反射みたいなものだ。出さないと落とされかねない勢いだったことも加えて。


「……かわいい……」


 髪の毛は、生え際が薄いもののそれなりに伸びていて、頭のてっぺんをヘアゴムで噴水になるような格好で括られている。ピンクのフリルのついたタンクトップと、テニスのスコートのようにお尻にフリフリがついたオーバーパンツ。

「あ、言っとくけどコレ、男の子だから」

「えええええ」

「だってかわいいじゃん、似合うし」


 居場所が変わってきょとんとした顔で樹理を見上げている真耶は、確かにかわいい。


「それからほら、大きくなって反抗期とかにこういうカッコの写真、見せたら効きそうじゃない?」

「……余計反抗すると思うから、やめてあげて……」

 泣き出すほどではないものの、機嫌が悪くなってきた真耶をマサキに返しながら樹理が呟く様に言う。


「えー オレ、昔の七五三の写真、アメリカに住んでたはずなのにどっかの神社の前で真っ赤な着物着てるのとか見せられて『この写真を撮るためだけに日本に帰ったんだー』とか父さんに言われて全力で反抗心が萎えた記憶があるんだけど」


「……それの写真は普通だと思うよ……わざわざ日本に帰って七五三してくれるとか、普通にいいお父さんだと思うよ……」


 それこそ返す言葉を探す気も萎えた様子の樹理がため息をついていると、やっぱりブツブツ文句を言いながらマサキの母が出てきて、白い封筒を哉に渡しながらまたマサキの代わりに謝っている。

 その場で中を確認した哉が財布から千円札を取り出して返そうとするのを母親が両手で阻止しようとする攻防を見ていたマサキが、じゃあオレが……と、手を出してまた頭を叩かれている。


「全くアンタは社会人にもなって。せめて財布には万札の一枚いつも手つかずで残しておきなさいって言ってるでしょうが!! 今まで何回帰りの電車賃が無くて交番で電話借りてたか覚えてないの!? 毎回迎えに行っておまわりさんに謝るこっちの身にもなりなさい!!」

「えー だって。今はスイカがピッだから電車賃とか気にしなくていいし、とりあえず今日は真耶連れだから車で来てるし……」


「そう言う問題じゃないでしょう!! ああっ 真耶ったら何受け取ってるの!?」

 ボケとツッコミのような会話がなされている間に、哉が無意味に手を伸ばしていた真耶に札を握らせている。無理に取り上げようにも、小さい手の握力は結構侮れない。


「お貸ししたのは九千円でしたので。では、これで失礼します」

「氷川サンも樹理もありがとー まったねー」

 長居は無用とばかりに手を引く哉に引きずられるようにしている樹理に、マサキが真耶のお金を握った手を持って振っている。のほほんと笑っているマサキを見て隣にいたマサキの母も一拍無言になり、それでも気を取り直してやっぱり最後まで謝っていた。


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