幸せのありか

神室さち

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なつまつり

14 side哉

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「あははははー 開けてびっくり三百二十七円しか入ってなかったよー」

 と言うことは、最初に買ったクレープ代すら持っていなかったことになる。


 結局もう一度境内を通って神社の裏手へ回り、そこから歩いて一分ほどの場所にあったマサキの実家に寄ることになり、マサキが持ちきれなかった大量のワッフルは哉の手にある。

「ただいまー 母さんへるぷみー」


 神社裏の静かな住宅街。その中でもひときわ目を引く大きな家の玄関を開けて、マサキが奥に向かって声を張り上げているのを、開けっ放しの玄関扉の外から見るともなしに眺めていると、何かブツブツ文句を言いながらぐずって泣いている小さな子供を抱いた人影がやってくる。


「真耶(まや)~」


「真耶じゃないでしょう。すぐ戻るって言うから預かってたのに中々帰ってこないからおなか空いたのかと思ってミルク作っても飲まないし、さっきからずっと機嫌が悪くて……あら? お客様? あなた人がいるならいるでちゃんと言いなさいよ。あらあらあらあら! 樹理ちゃんじゃないの久しぶり! また一段と美人になって! 浴衣姿かわいいわねぇ 女の子はこうでなきゃやっぱりダメよね! うちのオバカにつめの垢ひと煎じ分でいいから分けてやってよ本当にもう……」


 泣いていたことがはっきり分かる顔でうれしそうに笑った子供がマサキに手を伸ばしているのをいいことに、子供をポイっと手渡して樹理に向かってマシンガンのように言葉をつむいでいる年配の女性に樹理が切れ切れに、えっと、あの、と割り込みを試みているが、全くそのスキを与えない勢いだ。


「えええー 子供産んだし、出る量減ったけど一日一回は母乳やってるし、胸とか今なら百三十パーセント増量キャンペーン開催中ってなくらい増えたし。一応すんごい女らしいこと現在進行形な気がするんだけど」

「子作りと女らしさは別でしょう! 胸なんか授乳してる間だけでやらなくなったらまたきっと元通りぺしゃんこになるわよ! ってあらまぁごめんなさいね玄関先で変な話して。真耶を見に来てくれたの? よかったら上がってゆっくり……」


「ああ、それなんだけどね、母さん、悪いけど一万円貸して。財布にお金無くってさー 樹理の彼氏に借りちゃった」

 渡された子供を危なげなく受け止めて抱きしめて、ああそうだと思い出したように、事態を能天気この上ない、ごまかそうとしているのではなく本気で迷惑をかけたと思っていない様子で説明した息子にしか見えない娘の金髪頭をガツンと殴りついでに引っつかんで何とか二人で頭を下げる形で、当人よりも申し訳なさそうに謝ってくれた。



「本当にもう、申し訳ありませんでした」

「母さん、真耶が落ちるっ」

「落としたら母親失格。ちょっと待っててくださいね、お金取ってきますから」

 そういい残して、ぱたぱたと奥へ消えていくマサキの母の後姿をしばし見送って。



「……マサキ君の、子供?」


「そう。去年の暮れに産まれたの。割と勝手に、ぽーんって。あ。オレ、樹理に子供いること言い忘れてたんだよねー ゴメンゴメン。去年電話くれたころはまだ腹の中にいたんだ。一番重たくなったころでさぁ もう早く出てくれって思ってたんだけど、産んだら産んだでそれ以上に大変なわけ。でもさすがに再収納するわけにいかないから放し飼い中。最近人見知り始まってきて大体こうやってくっついてくるから、ちょっと離れて一人になりたくて母さんに預けて祭り行ったの。いやー 会えない時間が愛を育てるってホントだったんだなー さっきよりなんかいとおしい感じ」


「……結婚してたの?」


「式? あ、入籍? してないよ。別にしなくても子供は産めるし。暫くは別姓でいたほうが経営者としてはメリットが大きいからこのままのつもり」


 まーまーとニコニコ笑っている真耶にすりすりほお擦りしながらマサキがこともなげに答えた。


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