幸せのありか

神室さち

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なつまつり

13 side哉

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 樹理の手ごと掴んで、マサキほどのスピードでなくとも樹理よりも早くクレープを片付けていく哉を見て、マサキがぽんと手を打つ。


「なにが?」

「ほら、卒業文集とか作るでしょ? それにいろいろよくわかんないランキングがない? 代々の文集が図書館にあるらしいんだけど、氷川サンって同学年で一番怖い人差し置いて『怒ったら一番怖そうな人』ランキングでぶっちぎり一位だったんだって」


 哉に手ごとひっぱられて不自然な体勢のまま、樹理が視線をそらす。


「……」

「思い当たる節があるとか?」

「……ノーコメントで」

「ってか、食べるの早ッ! 独り占めしてないでオレにも頂戴よ」


 いつの間にか格段に減っている樹理のクレープに気付いたマサキが抗議の叫び声をあげる。残っているのは、樹理の口で約三口分ほどだが、マサキの一口分くらいだろう。手伝うと言う名目で分けてもらうにはギリギリ足らない。


「あの、そのくらいなら自分で食べられます」

 あー……と口を開けたままのマサキの目の前で、哉に開放された樹理が最後のスパートと言わんばかりの勢いで残りを食べてしまう。

「そんなに食べたいならもう一つ買う……?」

「………樹理のほしかったのに……」


 包み紙を丸めている小さい手を見て、名残惜しそうにあーあーとマサキが呻く。がっくり肩を落としてフラフラしていたくせに参道へ押し出したとたん、さっきまでの憔悴振りがウソみたいに、何かのいいニオイに誘われたのかぱっと顔を上げ、それ以前の元気さを取り戻してくるりと振り返ったその顔はご機嫌モードだ。


「樹理!! とうもろこし焼いてるよっ! バター醤油だって! なんかめちゃくちゃうまそうじゃない? ああでもソース系も捨てがたいなぁ やきそば、たこやき、お好み焼きー カラメル焼懐かしー 会社のみんなのお土産なににしようかなぁ」

 その切り替えの早さにパチパチと睫を上下させている樹理と、表情の変わらない哉。動かない二人の後ろに回りこんで肩を押すように人ごみの参道へ放り込む。

「冷めてもおいしいものにしないと今日日(きょうび)の若者たちは舌がこえてるからなぁ」

「あの、じゃあワッフルは? 表の入り口の方にお店があって、中のクリームも色々選べるみたいだったから。私も、お母さんや友達のお土産にしようと思ってて」


 忙しく視線をさまよわせて物色しているマサキをナナメに振り仰いだ樹理の提案に先ほどから目移りしまくっていたにもかかわらず何かひらめいたような顔で頷いている。

「ワッフルかぁ それでいいか。店どこ? 行こっ!」

「一番入り口のほうだったと思う」

 目的が出来たら一直線。ぐいぐい手を引くマサキに掴まれた手とは反対の手を、まるでそうすることが当たり前のように樹理が哉に伸ばす。


 その手をとって、三人連なって、けれど並列は出来ず、人ごみを縫うように体をナナメにしてすり抜けていく。然して長い距離があるわけでもなく、神社の敷地の入り口近くに他の店と同じ枠、前方三方に『ワッフル』と字抜きされた生地を垂らした店がすぐに目に付いた。

「樹理は何個買うの?」

「うーん、どうしようかな」

 中々繁盛しているのか、数人の客待ちの後ろに並び、先に立つマサキが振り返る。


 品書きは六種類。中に挟む餡やクリームの種類があり、目移りするのか人差し指を唇に当てて樹理が真剣な表情で悩んでいる。


「全部を二個ずつとかは? 十二個なら多すぎないし少なすぎないでしょ」

 選びきれずに煮詰まってきた樹理に、マサキが苦笑して助け舟を出す。

「樹理、先に買っていいよ。オレ全種類十五個ずつ買うから」

「え?」

 狭い露店で三人がクルクルと働いているおかげか、すぐに順番が来てマサキが当然のように樹理に順番を譲る。が、その口から出た注文数に樹理と、客の対応をしていた露天内の女性が異口同音で動きを止める。


「だって、みんなに買って帰らないとケンカするし。食べ物のことになるとお子様パワー全開なんだよ、オレんトコの社員。三年前のたこやきの恨みとかで未だにバトルだよ。一人二つは食べるだろうから最低そのくらいはないと食いっぱぐれていじけて仕事しないヤツがでるから……うがあ!!」


 止まっている女性に樹理の注文分と自分の分を改めて通してジーンズのポケットから財布を出したマサキが意味不明の呻き声を上げ、そーっと哉の方へ窺うような視線を向ける。




「………お金貸して? 実家寄って誰かに借りなおして返すから」



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