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なつまつり
12 side哉
しおりを挟む言葉より早く、有無を言わせないすばやさで立ちつくす二人の手をひっぱって、マサキが自分のテリトリーに引き込み、ペースを同調させてしまう。
「あっ! 金魚すくいだっ! やりたいけどすぐ死んじゃうんだよね……持って帰ってもきっと雪矢が飼ってるシロガネたちのエサになるだけだし……
あ、シロガネってね、プラチナブラックアロワナ。アホみたいに高い肉食観賞魚。すんげー値段なのにあんまりおいしくなさそうなヤツ。番いでさ、もう一匹はヤマノテって言うの。
おおうっ りんごあめが進化してる! なんか、イチゴとかブドウとかあるよ。
みてみてっチョコが滝っ! あんなの部屋にほしいなぁ 年中無休でチョコ三昧だ。思うんだけどさ、露天の甘栗も剥いちゃえばよくない? おいしいけど手が真っ黒になるんだよねぇ
うわぁ クレープ。クレープ食べたいクレープ!! 樹理はなんにする? オレはねー……とりあえず、全部入れて。えー できないの? ムリ? だって選べないじゃん、どれもおいしそうで。いいじゃん、一個ずつでいいんだからさ、乗っけてよ。そう、果物全部。そうそう、え? ソース? コレはさすがに選ばなきゃダメ? じゃあねぇ オレのはチョコでー 樹理のはマンゴーにして」
引きずり回されて独壇場。完全に戦意を喪失している哉と樹理をひっぱりまわしてマサキがご機嫌に一人実況状態だ。
「うひゃー 全部乗せたら一つ二千四百円になっちゃった。え? おごってくれるの? ラッキー さすが副社長太っ腹ー」
「え? あっ ありがとうございますっ うわぁ 重っ……」
具が入りすぎて重みでしなるクレープを両手で支えている樹理が、マサキの向こうで無言のまま支払いをしている哉に礼を言う。
さすがに食べ物が口に入れば、マサキも打って変わっておとなしくなった。が、大きな口を開けてバクバクとクレープを片付けて行くマサキに対して、精一杯口を開けてもその半分も食べられず、歩きながら食べるにはどうにもバランスが取りづらいらしい樹理を気遣って、一同で露店の合間、境内の松の木の為に出来たスキマに入って人を避けながら立ち止まる。
「ふ、ふいまふぇん」
かじれば横から溢れる黄色いソースと白いクリーム。不可抗力のように口の端につくそれらと格闘しながら、樹理が足止めしていることを詫びるが、嚥下しにくいホイップが舌にまとわり付いてろれつが回っていない。
一生懸命食べているようだが、半分も進めば、甘さと食感にそのスピードが落ちている。マサキに会う前に食べたいと言っていたので、クレープは好物なのだろう。甘いものは年相応に好きなのだが、絶対摂取量が平均以下なのだから、ほぼ水分だったとは言え甘い氷を食べた後に、この重さは致命的な様子だ。
「え? 樹理食べられないの? んじゃ手伝っ……ええっ! ダメなのっ!?」
四苦八苦しながらクレープを食べている樹理に、なんだか嬉々として助け舟を……口と同時に出てきたマサキの手を哉が叩(はた)く。
「ひゃー」
じろりと睨まれてさほど怖くもなさそうに、痛くもない叩かれた手を反対の手で撫でている。
「あ、なんか分かった。雪矢が前に言ってたことが」
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