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なつまつり
2 side樹理
しおりを挟む薬味の生姜と、誘惑に抗えずに買ってしまったアイス。小さな袋を提げて帰ってきて、いつも通りに、出たときと同じようにソファに転がっているであろう哉にだたいまと声をかけたら、返事なのかソファの背もたれからにょっきり手が現れて、ヒラヒラ揺れて消えた。
言葉が返ってこないのはいつものことなのだが、動作と言うアクションが返ってきたことに驚いて足を向けてソファの背側から覗き込むと、本ではなくシャチを片腕に抱いて軽く眉間に皺を寄せて不貞寝のように目を閉じている。
「どうかしたんですか?」
問いかけても無言で、動かない哉を見つめたまま去らない樹理に哉が前髪さえ揺れないくらい小さく首を振る。
「じゃあ、もう少ししたく、残ってるから……出来たら呼びますね」
その仕草に疑問は残るものの、なんでもないと言いたげな態度に樹理はキッチンへと戻り、途中で置いてしまった調理を──とは言っても、沸かしかけていた湯を再び沸騰させて素麺を湯がき、先ほど買ってきた生姜をすりおろせば終わりなのだが──調理を続け、盛り付けてテーブルに皿を並べる。
「氷川さん、ごはんできましたよ?」
しゃべらない代わりに最近は大体の空気を読んで、呼ばなくても勝手にやってくるのに、今日は動こうとはしない哉に、樹理が小首をかしげながら近づく。
「お素麺は伸びませんけど、やっぱり湯がきたてがおいしいと思うので、起きて下さい」
いつも枕の代わりにされて、かわいそうな状態で折れているシャチが正常な状態なのはいいのだが、なんだか様子がおかしい。
夏が始まる少し前に食べた素麺がいたくお気に召したらしく、この夏は週に一度は素麺か冷麦か。しかしそれだけではあまりにも食卓が寂しいので、毎回定番の薬味の他に、細切りのしいたけを甘辛く煮付けたものやゆでた鶏肉、きゅうりや薄焼き玉子などの具材も豊富だ。
「氷川さん?」
重ねて呼ぶ樹理に、哉が目を開け、気だるそうに緩慢に起き上がって、シャチと樹理を置いてテーブルに行ってしまう。
何か気に障るような事をしたのだろうかと、樹理は首をかしげたままその背中を追ってテーブルについた。
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