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華灯
20 side瀬崎
しおりを挟む「だからー めちゃめちゃかわいいって言ったじゃないですか。ホント、誰も信じてくれないし。いっときますけど実物のほうがもっともっとかわいいですよ」
「そうか、まあちょっと見たかったがな。受付たちが騒いでたよ。お前がいくら言っても証拠がなかったんだ。写真の一枚手に入れられない自分が悪いんだ、仕方ないだろ」
花火大会の夜のうちに、樹理の写真は社内メールで数名のところに届けられた。そしてそのメールは倍倍ゲームよろしく爆発的にコピーされ、あっという間にほとんどの社員のパソコンに保存された。
犯人は鈴谷だ。そして彼女の言うとおり増本も共犯だ。なにせ、写真はしっかり樹理一人をバストアップで捉えたものだったからだ。
何か加工して鈴谷を消したのではなく。
一度でも手が加わった写真なら、どこだって修正可能ということだ。敢えて何も手を加えないことをアピールするのが狙いだろう。だから場所が特定されそうなファイルが背景に入るのもこだわったのだ。
「しかし、なかなかやるね、君の同僚」
「……まあとにかく、これで俺、誇張してるとか言われなくて済む……」
「感謝しないとな」
「イヤですよ、写真については俺、なんも手を下してないのになんか、俺が主犯みたいに言われてるんですよ?」
そう、鈴谷はどうやったのか瀬崎の社内メールアドレスを使って写真をばら撒いてくれたのだ。情報管理が主な仕事である高遠はそれが偽装だと見破ったようだが、普通の社員は発信者が偽られているとは思わないだろう。その上、樹理の噂については紛れもない自分が元凶だ。
「いいじゃないか、人の彼女を自分のみたいに自慢して歩いていたバチが当たったと思え」
「だから、俺が言いふらしたわけじゃないですってば! なんかもう、みんな誤解してますけどっ」
「聞かれたら誰彼となくペラペラしゃべって答えてただろうが。十分だ」
やっとやってきたエレベータに一緒に乗り込んで、高遠がボタンを押す。
「人のことより自分だろう。小木野あたりに合コン頼めば?」
「自分はどうなんっスか?」
「俺か? 俺は当分今の子で楽しめそうだから」
「うわあぁあ なんで顔だけがとりえみたいなバツ一で軽く鬼畜な高遠先輩に彼女ができて俺にはいないんだろう」
「……お前一回埋めるぞ」
「うへぇ 俺って正直なだけがとりえですから。埋めるのはご勘弁。先輩が言うと冗談に聞こえません」
じろりと冷たい視線で刺された瀬崎がおどけた口調でかわす。
「あーあ、ほんとにもう、なんで俺彼女できないんだろ」
「それはな」
高遠の降りる階に着いた箱が、電子音とともに止まり、ドアが開く。
「お前が正直すぎるからだ」
高遠のゼロ円スマイルと捨て台詞が一緒に、瀬崎が乗ったままの箱の中に取り残された。
「ちっくしょー いいなぁ 誰も彼も楽しそうで幸せそうでー」
運行ロックがかかっているので誰も乗ってこない箱の中で瀬崎が地団太を踏んだのちしゃがみこんでつぶやいた。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
そして華灯もモブ目線で終わるのです……
最後に出てきた高遠君はアレです。サイトで掲載していた時はこちらの方を先に書いてたんで、学園☆天国に割と唐突に強引にユリが出てきた次第……
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