幸せのありか

神室さち

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華灯

2 side樹理

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 何も考えずに……とまではいかないが、とにかくテレビの裏とか棚の上とか、普段目が届かないところを拭き終わり、キッチンの棚の中を整理しているとキッチンカウンターの上で充電していた樹理の携帯電話が軽やかなメロディを奏でだした。


 携帯電話というのは、出る前に誰からか確認できるのがいい。開くと全く知らない番号からで、少し躊躇した後、樹理は通話ボタンを押した。


「もしもし?」

『もしもし、樹理ちゃん? 私わたし、実冴お姉さまだよー』

「……」

『よかったー 出てくれて。今日ヒマ? 今ねぇ 理右湖んちにきてて、これから買い物に行こうって。よかったら樹理ちゃんも一緒に行かない? 迎えに行くよー っていうか、ヤダって言われても行くからね』


「え、あの、私も行っていいんですか?」

『いや、むしろ来てくれないと困るから』



 なにがどうして困るんだろう。



『じゃああと二十分くらいしたらそっちつくから、支度しといてねー』

 有無を言わさぬ勢いでそう言って、樹理の返事も聞かずに電話が切れてしまった。



「支度? 支度って……あああああ、何着て行こうっ!? 頭あたまっ 頭直さないとっ 日焼け止めもっ」

 掃除用の袖つきエプロンをはずして、埃除けにかぶっていたバンダナを取る。とりあえず櫛を通しただけで軽く団子に縛った髪を解いて洗面台の前へ。

 鏡の中の自分としばらくにらめっこして、結局横に流す三つ編みにし、日焼け止めを塗る。もともと色が白いので、少しのつもりでも外に出るとすぐに赤くなってしまうのだ。黒くならずに引いてしまうけれど。


 和室に駆け込んでクロゼットを開けてノースリーブのワンピースを出す。ゴールデンウイークに哉に連れて行かれた店から、今月の初めにダイレクトメールが届いた。

 いや、ダイレクトメールというより、カタログだった。

 買う買わないは置いておいて、かわいい服を見るのは楽しいので哉が帰ってくるまでの暇つぶしにパラパラとめくって、いいなぁと思うものが載ったページを後からまたじっくり見ようと、端を折っていたのがいけなかったのだ、多分。


 樹理のクローゼットにはまた服が増え、シューズクローゼットはひと棚分靴が増えた。増殖具合が低いのは、さすがに黙って注文されたわけではないからだが、なんだかんだでなし崩しのように樹理が予定していた枚数の二乗分くらいになっていたのだが。


 薄い水色の膝丈のワンピースにレースの半そでのボレロ。カバンも買ってもらったばかりの同系色の麦わら編みのもので、靴は……見てから決めよう。


 カバンにいつも持ち歩くものが入っているインナーバッグと携帯電話、財布を突っ込んで玄関横のシューズクローゼットから結局自宅から持ってきたミュールを引っ張り出す。買い物なら歩くだろう。履きなれないものより、慣れたものの方がいい。



 あわただしく支度を整えて、電気の消し忘れを律儀に指差し点検して、樹理は家を出た。



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