188 / 326
華灯
2 side樹理
しおりを挟む何も考えずに……とまではいかないが、とにかくテレビの裏とか棚の上とか、普段目が届かないところを拭き終わり、キッチンの棚の中を整理しているとキッチンカウンターの上で充電していた樹理の携帯電話が軽やかなメロディを奏でだした。
携帯電話というのは、出る前に誰からか確認できるのがいい。開くと全く知らない番号からで、少し躊躇した後、樹理は通話ボタンを押した。
「もしもし?」
『もしもし、樹理ちゃん? 私わたし、実冴お姉さまだよー』
「……」
『よかったー 出てくれて。今日ヒマ? 今ねぇ 理右湖んちにきてて、これから買い物に行こうって。よかったら樹理ちゃんも一緒に行かない? 迎えに行くよー っていうか、ヤダって言われても行くからね』
「え、あの、私も行っていいんですか?」
『いや、むしろ来てくれないと困るから』
なにがどうして困るんだろう。
『じゃああと二十分くらいしたらそっちつくから、支度しといてねー』
有無を言わさぬ勢いでそう言って、樹理の返事も聞かずに電話が切れてしまった。
「支度? 支度って……あああああ、何着て行こうっ!? 頭あたまっ 頭直さないとっ 日焼け止めもっ」
掃除用の袖つきエプロンをはずして、埃除けにかぶっていたバンダナを取る。とりあえず櫛を通しただけで軽く団子に縛った髪を解いて洗面台の前へ。
鏡の中の自分としばらくにらめっこして、結局横に流す三つ編みにし、日焼け止めを塗る。もともと色が白いので、少しのつもりでも外に出るとすぐに赤くなってしまうのだ。黒くならずに引いてしまうけれど。
和室に駆け込んでクロゼットを開けてノースリーブのワンピースを出す。ゴールデンウイークに哉に連れて行かれた店から、今月の初めにダイレクトメールが届いた。
いや、ダイレクトメールというより、カタログだった。
買う買わないは置いておいて、かわいい服を見るのは楽しいので哉が帰ってくるまでの暇つぶしにパラパラとめくって、いいなぁと思うものが載ったページを後からまたじっくり見ようと、端を折っていたのがいけなかったのだ、多分。
樹理のクローゼットにはまた服が増え、シューズクローゼットはひと棚分靴が増えた。増殖具合が低いのは、さすがに黙って注文されたわけではないからだが、なんだかんだでなし崩しのように樹理が予定していた枚数の二乗分くらいになっていたのだが。
薄い水色の膝丈のワンピースにレースの半そでのボレロ。カバンも買ってもらったばかりの同系色の麦わら編みのもので、靴は……見てから決めよう。
カバンにいつも持ち歩くものが入っているインナーバッグと携帯電話、財布を突っ込んで玄関横のシューズクローゼットから結局自宅から持ってきたミュールを引っ張り出す。買い物なら歩くだろう。履きなれないものより、慣れたものの方がいい。
あわただしく支度を整えて、電気の消し忘れを律儀に指差し点検して、樹理は家を出た。
0
お気に入りに追加
182
あなたにおすすめの小説
殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。
真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。
そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが…
7万文字くらいのお話です。
よろしくお願いいたしますm(__)m
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
「わかれよう」そうおっしゃったのはあなたの方だったのに。
友坂 悠
恋愛
侯爵夫人のマリエルは、夫のジュリウスから一年後の離縁を提案される。
あと一年白い結婚を続ければ、世間体を気にせず離婚できるから、と。
ジュリウスにとっては亡き父が進めた政略結婚、侯爵位を継いだ今、それを解消したいと思っていたのだった。
「君にだってきっと本当に好きな人が現れるさ。私は元々こうした政略婚は嫌いだったんだ。父に逆らうことができず君を娶ってしまったことは本当に後悔している。だからさ、一年後には離婚をして、第二の人生をちゃんと歩んでいくべきだと思うんだよ。お互いにね」
「わかりました……」
「私は君を解放してあげたいんだ。君が幸せになるために」
そうおっしゃるジュリウスに、逆らうこともできず受け入れるマリエルだったけれど……。
勘違い、すれ違いな夫婦の恋。
前半はヒロイン、中盤はヒーロー視点でお贈りします。
四万字ほどの中編。お楽しみいただけたらうれしいです。
ヒロインのシスコンお兄様は、悪役令嬢を溺愛してはいけません!
あきのみどり
恋愛
【ヒロイン溺愛のシスコンお兄様(予定)×悪役令嬢(予定)】
小説の悪役令嬢に転生した令嬢グステルは、自分がいずれヒロインを陥れ、失敗し、獄死する運命であることを知っていた。
その運命から逃れるべく、九つの時に家出して平穏に生きていたが。
ある日彼女のもとへ、その運命に引き戻そうとする青年がやってきた。
その青年が、ヒロインを溺愛する彼女の兄、自分の天敵たる男だと知りグステルは怯えるが、彼はなぜかグステルにぜんぜん冷たくない。それどころか彼女のもとへ日参し、大事なはずの妹も蔑ろにしはじめて──。
優しいはずのヒロインにもひがまれ、さらに実家にはグステルの偽者も現れて物語は次第に思ってもみなかった方向へ。
運命を変えようとした悪役令嬢予定者グステルと、そんな彼女にうっかりシスコンの運命を変えられてしまった次期侯爵の想定外ラブコメ。
※話数は多いですが、1話1話は短め。ちょこちょこ更新中です!
●3月9日19時
37の続きのエピソードを一つ飛ばしてしまっていたので、38話目を追加し、38話として投稿していた『ラーラ・ハンナバルト①』を『39』として投稿し直しましたm(_ _)m
なろうさんにも同作品を投稿中です。
探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?
雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。
最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。
ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。
もう限界です。
探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。
隣国に売られるように渡った王女
まるねこ
恋愛
幼いころから王妃の命令で勉強ばかりしていたリヴィア。乳母に支えられながら成長し、ある日、父である国王陛下から呼び出しがあった。
「リヴィア、お前は長年王女として過ごしているが未だ婚約者がいなかったな。良い嫁ぎ先を選んでおいた」と。
リヴィアの不遇はいつまで続くのか。
Copyright©︎2024-まるねこ
見捨てられたのは私
梅雨の人
恋愛
急に振り出した雨の中、目の前のお二人は急ぎ足でこちらを振り返ることもなくどんどん私から離れていきます。
ただ三人で、いいえ、二人と一人で歩いていただけでございました。
ぽつぽつと振り出した雨は勢いを増してきましたのに、あなたの妻である私は一人取り残されてもそこからしばらく動くことができないのはどうしてなのでしょうか。いつものこと、いつものことなのに、いつまでたっても惨めで悲しくなるのです。
何度悲しい思いをしても、それでもあなたをお慕いしてまいりましたが、さすがにもうあきらめようかと思っております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる