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学園☆天国
24 side琉伊
しおりを挟むイヤイヤ言ってたのに、ユリは正客をそれなりにこなしてしまった。常識がなくて性格が微妙で、男癖が悪くて脳みそがハンパなく腐ってるけど、なんだかんだで本番に強いんだよね、この子は。
逆にかわいそうだったのは夏清ちゃんだけど、最初こそガッチガチに緊張してたみたいでぎこちなかったけど、途中から吹っ切れたのか、何か放棄した感じで、逆に動きがスムーズになって、最後にはすごく場慣れした空気すらかもし出していた。さすが、井名里さんの隣にいるだけのことはあると言うか。順応性の高い子だな。
順々に拝見のお道具が回されてくる間も、ユリが今日の亭主を務めてお茶を点てていた私たちの師匠や、半東(はんどう)を勤めてくださっているそのまた大師匠と、嫌味のない会話を続けている。その常識的な会話を日常にもしてほしいわ。いつもいつも周囲にはばかるような話ばっかりしてないで。
型どおり、私のところまでお道具が回り、それを半東が引いてくれる。お客様として招いているはずの、師匠のまた大師匠が半東をしてるのは先にユリが電話していたからだろう。下町の軒先に出された縁台で碁を打っていそうな小粋なおじいちゃんっぽい外見だけれど、関東では名の知れた茶人がこの場にいるのはさすがに少し緊張する。
「今日は本当に懐かしい方々がお見えで、大変楽しませていただきましたよ」
一連の茶事が終わったのを見計らったように、それまでより少し砕けた口調で半東を務めていた大師匠がユリに話しかける。
「私も含めていただけますの?」
「もちろんですよ。先ほども、あの騒動からもう十年以上も経ったんですねぇって話していたんですよ」
大師匠が、師匠と顔を見合わせて楽しい過去を思い出すような微笑を湛えている。古きよき記憶……などではないのだけれど、私にとっては。
「よろしければ、氷川君の点てたお茶をまたいただきたいんだが、お願いできるかな」
「私もお相伴させていただきたいわ。お話を聞くだけで、お会いするのは初めてですわねぇ あの折はありがとう」
大師匠の要望に、師匠も追従。大体予想はしていたけれど、やっぱりか。
「僕は構いません。お時間が許されるなら点てさせていただきます」
ええええええ? 点てちゃうの? ほんとに? 正座をしてもぴんと伸びた背中。身長は高い方ではないけれど……ぶっちゃけ私とそんなに変わらないけれど──立ってるときとかヘタしたらヒールの分私の方が若干アレだけど──まあ、すぐそこに井名里さんがいると、かなりちっちゃく見えるんだけど姿勢がいいからそれなりの存在感が哉にはある。
すっと両手をついて礼。頭ではなく、体が覚えている動作で。それを見た二人の老人が、いそいそと自分たちのお茶のおしまいをする。それを見届けて、三十分近くじっと正座をしていたとは思えないくらい滑らかに立ち上がる。つくづく無駄がない。
哉がすいっと視線を井名里さんに。それだけで哉が何を言いたいのか分かったらしく、ハイハイと言いながら彼も立ち上がった。
「別に今回は妹でもいいだろう、半東なんてあの時やっただけだぞ」
「私はまだ一度もそんな大役承ったことがありませんので、謹んでお譲りします。前は物陰からコソコソ見ていたので、今日はここで見させて頂きます」
こちらは座ったまま、言われっぱなしは悔しいのでとりあえずの笑顔で応酬。そんなことを言っても、哉も井名里さんも誰かに代わるつもりなどないはずだ。お互いの背中はお互いが守るみたいな空気が今もしっかりある。しかし、哉はともかく井名里さんは気づいてるはずなのだから、そう言う空気がユリを狂わせるってことに。逆に煽って面白がってるのかしらあの人は。
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